「成し遂げたことやくぐり抜けた危険について、人前でしょっちゅう大げさに話すのは避けたまえ。」
これはストア派の哲学者エピクテトスが『提要』に残した言葉です。自分の冒険談を語るのは楽しいかもしれませんが、聞かされる側にとっては退屈で迷惑になりやすい。過去を誇張して物語をつくり、自分を大きく見せることは、結局は独りよがりに過ぎないのです。
「語りの虚構」とは何か
現代の思想家ナシーム・タレブは、人が過去の出来事をつなぎ合わせて一貫した物語に仕立ててしまう傾向を「語りの虚構(narrative fallacy)」と呼びました。
- バラバラの出来事に筋をつける
- そこに因果関係を見いだしたと錯覚する
- あたかも「現実」を理解した気になる
この傾向は人間にとって自然なものですが、しばしば誤解や思い込みを生み、私たちを現実から遠ざけてしまいます。
誇張した物語は誰のためか?
エピクテトスが指摘するように、自分の過去を物語に仕立てて語るのは、話す本人にとっては愉快かもしれません。しかし聞き手にとってはどうでしょうか?
- 高校時代のスポーツ武勇伝を延々と語る
- 恋愛や人間関係の「武勇伝」を誇張する
- 過去の成功談を自慢げに繰り返す
これらは会話を支配し、相手を退屈させます。自分は気持ちよくても、相手は不快感を覚えているかもしれません。
現実に生きるための心構え
物語をこしらえて生きるのは、過去の幻影に浸ることです。大切なのは「今」という現実に生きること。そして他者とのつながりを大切にすることです。
- 自分の話よりも相手の話に耳を傾ける
- 誇張や脚色よりも、率直さと誠実さを大事にする
- 「今ここ」で何ができるかに集中する
実践のためのステップ
- 会話で「質問役」に回る
自分の話を減らし、相手に語ってもらう。 - 「これは自慢ではないか?」と振り返る
語ろうとしている話が相手の利益になるか、自分の承認欲求を満たすだけかを考える。 - 過去より現在に焦点を当てる
「昔どうだったか」より「今どうしたいか」を語るようにする。 - 事実をそのままに伝える
ストーリー化せず、出来事をシンプルに話す練習をする。
まとめ ― 虚構ではなく現実に生きる
エピクテトスもタレブも、私たちに「物語をこしらえるな」と教えてくれます。
誇張した物語に逃げ込むのではなく、現実を直視し、他者に耳を傾ける。そこにこそ、誠実で実りある人間関係と、自分らしい生き方があります。
あなたも今日から、過去の物語を語る代わりに「今」を大切にしてみませんか?