私たちが日常臨床で関わる患者の中には、細菌感染症によって重篤な状態に陥る方が少なくありません。感染症の病態を理解する上で、血液検査などの客観的指標は大きな助けとなります。特に好中球・CRP・血小板・フィブリノゲンは、感染の進展や重症度を把握する上で重要なマーカーです。本記事では、それぞれの検査値の意味と、臨床現場での活用方法について整理していきます。
1. 細菌感染と初期防御反応:マクロファージと好中球
細菌が体内に侵入すると、最初に反応するのはマクロファージです。マクロファージは細菌を貪食し、さらに炎症性サイトカインを放出します。その中でも重要なのが**IL-6(インターロイキン6)**です。
IL-6は肝臓に作用し、**CRP(C反応性タンパク)**の産生を促進します。これによって血中のCRP濃度が上昇し、感染の存在を示す指標となります。同時に、マクロファージからは好中球を呼び寄せる因子も分泌され、感染巣に好中球が集まり、細菌排除が加速します。
好中球は体内で最も重要な細菌防御細胞であり、感染が重症化すればするほど、大量の好中球が消費されます。このため、**白血球数や桿状核球の割合(左方移動)**を確認することで、感染に伴う好中球の消費量や病態の進展を推定することが可能です。
2. CRPの特徴と限界
CRPは炎症マーカーとして臨床で頻用されますが、注意が必要です。CRPはあくまでもマクロファージの活性化を反映する指標であり、細菌感染症の重症度を直接示すものではありません。IL-6が分泌されてから肝臓がCRPを作り出し、血中濃度がピークに達するまでには2〜3日を要するため、病態をリアルタイムで評価する指標としては限界があります。
そのため、CRPは「感染の有無や炎症反応の存在を補助的に捉えるマーカー」として理解し、他の検査値と組み合わせて活用することが重要です。
3. 敗血症に関連する血小板とフィブリノゲンの変化
細菌感染が全身に及ぶと、敗血症に移行することがあります。敗血症では凝固反応が亢進し、血小板やフィブリノゲンが消費されるため、それらの数値が低下していきます。
- 血小板減少:敗血症が疑われる重要な所見
- フィブリノゲン低下:血小板よりも鋭敏に変化する場合がある
ただし、フィブリノゲンの測定は頻繁には行えないため、日常臨床では血小板数の変動を重視する場面が多いのが現状です。
4. 検査値は「時系列」で捉える
ここで強調したいのは、検査値は一度きりの測定だけで病態を正しく把握するのは難しいという点です。入院時の数値だけで判断するのではなく、経時的な変化を追うことで初めてその臨床的価値が高まります。
例えば、
- 好中球数や左方移動の推移
- CRPの上昇・下降のタイミング
- 血小板やフィブリノゲンの動き
これらを組み合わせて総合的に解釈することで、感染症の進展や回復をより的確に捉えることができます。
まとめ
細菌感染症における検査値の変化は、それぞれが異なる病態生理を反映しています。
- 好中球:細菌排除の最前線であり、消費量は重症度を示す
- CRP:炎症反応を示すが、リアルタイム性は低い
- 血小板・フィブリノゲン:敗血症を疑う重要なマーカー
これらを単独で評価するのではなく、複数の指標を時系列で確認することが臨床判断において重要です。理学療法や作業療法の現場でも、検査値の意味を理解しておくことで、患者の全身状態をより正確に把握し、安全かつ効果的なリハビリテーションの提供につなげることができます。