「無事なときには心を引き締め、有事の際にはゆとりを持つ」──菜根譚が教える、心のバランスを保つ知恵
「順調なとき」と「ピンチのとき」、あなたの心はどう動く?
『菜根譚』には、次のような教えがあります。
物事がうまくいって無事なときほど、気持ちをゆるめることなく、有事に備えよ。
そして、何か事が起こって忙しいときほど、気持ちにゆとりを持って対処せよ。
この言葉は、**「平常心の重要性」**を端的に表しています。
順調なとき、人はつい気を抜いて油断しがちです。
逆に、トラブルが起きたときには焦りや不安で視野が狭くなり、冷静な判断を失います。
菜根譚は、この“心の逆転現象”を見抜いたうえで、
「平穏なときこそ引き締め、混乱のときこそ落ち着け」
と教えているのです。
無事なときに油断すると、心は鈍る
物事がうまくいっているとき、私たちは気づかぬうちに「安心の罠」に陥ります。
「もう大丈夫だろう」「しばらくはこのままでいい」と油断した瞬間、
成長の歩みが止まり、環境の変化に対応できなくなってしまいます。
たとえば、仕事が順調なときほど、学ぶ意欲を忘れたり、
健康に問題がないときほど、生活習慣をおろそかにしたり。
どんな分野でも、“うまくいっているとき”が一番危ういものです。
菜根譚の言葉を現代風に言い換えれば、
「平和なときこそ備えを怠るな」
という警鐘です。
ほんの少しの緊張感と謙虚さを保つことで、安定はより確かなものになります。
有事のときこそ「焦らず、ゆとりを持つ」
反対に、トラブルや危機が訪れたときはどうでしょうか。
多くの人は、焦りや不安から判断を誤り、悪循環に陥ります。
しかし菜根譚は、そんなときこそ「心にゆとりを持て」と説きます。
つまり、冷静さを失わないことが最大の武器なのです。
有事の際に焦るのは自然なこと。
でも、その感情に流されずに「一歩引いて状況を俯瞰できるかどうか」が、
危機を乗り越えられる人とそうでない人の違いになります。
たとえば、仕事でミスが起きたときにパニックになっても、状況は好転しません。
深呼吸をして、できることを一つずつ整理する。
それが、結果的に最善の対応につながります。
菜根譚が教える「心のバランス」を保つ3つの方法
では、どうすれば「無事なときは引き締め、有事の際は落ち着く」という心のバランスを保てるのでしょうか?
ここでは、菜根譚の精神を現代的に実践する3つのポイントを紹介します。
① 「うまくいっているときほど感謝を忘れない」
順調なときこそ、自分の力だけではなく、周囲の支えがあることを意識する。
感謝の気持ちは、慢心を防ぎ、謙虚さを保つ最良の方法です。
「今の成功は一時のものである」と意識することで、自然と心が引き締まります。
② 「トラブル時は“最悪を想定して最善を尽くす”」
有事の際に冷静でいるコツは、「最悪のシナリオ」を心の中で一度受け入れておくこと。
「ここまで悪化しても大丈夫」と腹をくくれば、焦りは和らぎます。
そこから冷静に最善を探す──それが“ゆとりある対応”の本質です。
③ 「心のメーター」を意識して整える
日常の中で、自分の心が“緩みすぎていないか”“焦りすぎていないか”を観察しましょう。
感情のメーターが極端に振れているときは、一度立ち止まること。
瞑想や深呼吸、静かな時間を持つことで、心のバランスを整えられます。
「平常心」とは、緩まないけれど硬くもならない心
「平常心」と聞くと、感情を抑える冷静な人を思い浮かべるかもしれません。
しかし菜根譚の教える平常心は、しなやかに動く柔らかな心です。
常に緊張しているわけでもなく、常にゆるんでいるわけでもない。
状況に応じて最も自然な心の姿勢を保つ──それが本当の平常心です。
無事のときも、有事のときも、自分を見失わない。
まるで深く根を張る樹木のように、外の環境が変わっても静かに立ち続ける心。
それが、菜根譚の理想とする「人格者の姿」なのです。
まとめ
- 無事なときほど油断せず、備えることが安定を守る鍵
- 有事の際こそ焦らず、冷静に対応する心のゆとりを持つ
- 感謝・想定・観察の3つで心のバランスを整える
- 真の「平常心」は、硬くもなく緩くもない、しなやかな心
『菜根譚』のこの言葉は、
「成功しても慌てず、失敗しても崩れない」人になるための指南書です。
順調なときにこそ引き締め、
逆境のときほど穏やかに。
この心の逆転法を身につけることで、
人生のどんな波にも揺るがない“静かな強さ”が育っていくのです。
