私たちの多くは、日常の行動を「習慣」に任せています。朝起きてから夜眠るまで、何を食べるか、どう仕事を進めるか、どんな言葉を発するか――その多くは深く考えることなく繰り返されています。
もちろん習慣にはメリットもあります。効率を上げ、余計な判断のエネルギーを省いてくれる。しかし、古代ローマの哲学者ムソニウス・ルフスは『清談』の中で、習慣に盲目的に従うことの危険性を鋭く指摘しました。
彼はこう言います。
「ほとんどの物事について、われわれは正しい想定に基づかず、悪しき習慣に従って対処しようとする」
つまり、私たちが当然のように行っていることの多くは、必ずしも正しい理由に裏づけられていないというのです。
習慣に従う危うさ
例えば会社での一場面を考えてみましょう。上司が部下にこう尋ねます。
「なぜこのやり方をしたのか?」
すると部下は答えます。
「今までこうやってきたからです」
一見、合理的な答えに聞こえるかもしれません。しかし実際には「思考停止」を意味します。このように習慣に任せて行動する社員は、環境の変化に対応できず、やがて競合に追い抜かれるでしょう。上司から見れば危機的なサインであり、ライバル企業の経営者から見れば格好のチャンスです。
習慣に縛られることは、現状維持に甘んじ、成長や改善を止めることにつながります。
哲学の目的は「悪習を断ち切ること」
ムソニウス・ルフスが説いたのは、哲学を学ぶ本来の目的は「悪習を断ち切ること」にあるということです。
私たちは日常生活の中で、無意識のうちに「快楽を求め、苦痛を避ける」「生に執着し、死を恐れる」「財産を得ようとして与えることを避ける」といったパターンに支配されています。これらは人間に自然に備わった傾向のように思えるかもしれませんが、ルフスに言わせれば「克服すべき悪習」なのです。
哲学とは、こうした思考の惰性を断ち切り、自分の頭で「なぜそうするのか」を問い直すための実践なのです。
「これが本当にベストか?」と問い直す
私たちができる第一歩は、日常の行動に「問い」を差し込むことです。
- なぜこの方法を選んでいるのか?
- 本当にこのやり方が最適なのか?
- ただの習慣に流されていないか?
例えば、仕事のメールの書き方。毎回同じテンプレートを使っていないでしょうか?相手によって文面を調整した方が伝わりやすいかもしれません。
あるいは健康のために毎朝同じ運動をしている場合も、それが今の体の状態に合っているかを時折確認すべきです。
重要なのは「いつも通りだから」ではなく、「これが最も良い理由だから」と言える行動を選ぶことです。
習慣に振り回されないためにできること
習慣を見直すには、大げさなことをする必要はありません。日常にちょっとした工夫を加えるだけで十分です。
- 習慣リストを作る
普段何気なくやっていることを書き出してみましょう。スマホを手に取るタイミング、通勤中の行動、会議での発言パターンなど。 - 「なぜ?」を問う
その習慣を続ける理由は何か、自分に問いかけてみます。もし理由が「昔からそうしているから」しかないなら要注意です。 - 小さな実験をする
習慣を一度だけ変えてみる。違う方法を試してみる。それだけで新しい気づきが得られるかもしれません。
この繰り返しが、習慣に縛られずに「考えて行動する力」を養っていきます。
まとめ
ムソニウス・ルフスの教えに従えば、私たちが克服すべきは「悪しき習慣に従うこと」です。
- 習慣に流されると、成長のチャンスを失う
- 哲学は悪習を断ち切るためにある
- 「これが本当にベストか?」と常に問い直す
- 習慣を見直す小さな実験から始める
日常の一つひとつの行動を問い直すことで、私たちはより意識的に、そして主体的に生きることができます。
「いつものやり方」に安心するのではなく、「より良い理由」に基づいた行動を選ぶ。これこそが、人生を豊かにし、仕事や人間関係を進化させる力になるのです。
👉 今日一日の中で「無意識にやっている習慣」を一つ見直してみましょう。その問いかけが、明日の成長につながります。