「上級の事業家とは“国の利益”を考える人」──幸田露伴『努力論』に学ぶ、経営の最高到達点
「上級の事業家」とは何を指すのか
幸田露伴の『努力論』は、「努力すれば成功する」といった単純な成功哲学ではありません。
それは、**「努力とは、社会にどう役立つかを考える精神活動」**であり、
一人の人間が“より良く生きるための道”を示した人生論でもあります。
その中で第206節「国益を考えるのが上級事業家」では、
露伴が考える“最高の事業家”の姿が語られています。
「永遠高大な利益をもたらそうとする事業家は、一見したところ、中級事業者とそれほど大きく異なっていないように思える。」
つまり、見た目には同じように見えても、
真の上級事業家と中級事業家の間には、決定的な違いがあるというのです。
改良と修正を怠らないのが「上級の証」
露伴は、上級事業家の特徴をこう述べています。
「上級事業家は常に改良修正を怠らず、時代の要求に応じて古いものを改め新機軸を打ち出す。」
つまり、時代に応じて進化し続ける柔軟性と創造力こそ、上級事業家の条件です。
ただ利益を追い求めるだけの経営ではなく、
常に「もっと良くできないか」「社会のためになるか」と自問し続ける。
そうした不断の努力が、知らず知らずのうちに社会全体を進歩させていく。
露伴は、こうした姿勢を「永遠高大な利益をもたらす」と表現しています。
この「永遠高大な利益」とは、単なる経済的利益ではなく、
社会や国家に長期的な価値を生み出すことを指しています。
「利益の次元」で事業家の格が分かれる
露伴はさらに、事業家の格を「利益の考え方」で三段階に分けています。
「個人の利益だけを考える事業家は最低だ。」
「個人の利益と組織の利益を一致させようと努力する事業家はやや高級だ。」
「真に高級だといえるのは、何といっても国家の利益を考えて努力する事業家である。」
この三段階の構造は、現代の経営哲学にも通じます。
● 第一段階:自己中心の経営
「自分だけが儲かればいい」と考える経営。
短期的には成功するかもしれませんが、信用を失い、必ず破綻します。
● 第二段階:組織と共に成長する経営
社員や取引先を大切にし、共に利益を得ようとする姿勢。
中級の事業家は、ここまでは到達できます。
● 第三段階:国と社会のために働く経営
上級の事業家は、自分の会社だけでなく、
社会や国家の発展に貢献することを最終目標とします。
たとえば、
- 雇用を創出する
- 新しい技術で社会問題を解決する
- 教育や福祉に投資して地域を豊かにする
こうした視点で事業を行うことこそ、
露伴のいう「上級事業家」の条件なのです。
「国益を考える」とは、利己を超えるということ
ここでの「国益」という言葉を、現代的に言い換えるなら、
**「公共の利益」「社会全体の幸福」**といえるでしょう。
露伴のいう「国家の利益」とは、政治的な意味合いではなく、
一人ひとりの生活が豊かになり、社会全体が安定し、
未来へ希望が続いていくような構造をつくること。
つまり、「国益を考える事業家」とは、
自分の成功を社会の幸福につなげる人のことです。
露伴がこの思想を説いた明治時代は、
まだ「個人の成功」や「企業の利益」が重視されがちでした。
その中で「国益」という高い視点を提示したことは、
まさに時代を先取りした洞察と言えます。
上級事業家は「未来を創る人」
露伴が理想とした上級事業家は、
**“未来志向の改革者”**でもあります。
古い制度や慣習にしがみつくのではなく、
時代の変化を見極め、新しい価値を創り出す。
彼らは社会の風向きを敏感に感じ取り、
必要であれば自らの事業構造すら大胆に変える勇気を持っています。
その柔軟さと覚悟こそ、社会を進化させる原動力。
露伴が「永遠高大な利益」と表現したのは、
まさにこの“未来への貢献”を指しているのです。
「上級の志」は、どんな仕事にも通じる
露伴の教えは、事業家に限らず、あらゆる職業に共通します。
- 自分の利益より、チームの成果を考える。
- 自分の会社より、社会全体の幸福を願う。
- 目先の成功より、長く続く価値を残す。
こうした姿勢を持つ人は、どんな分野でも“上級”の仕事をしています。
露伴の言葉は、働く人すべてに向けた「志の指標」なのです。
おわりに:真の成功とは、“自分を超えた貢献”
幸田露伴の『努力論』は、
「努力」や「成功」を個人の枠を超えた視点で捉えています。
「真に高級だといえるのは、国家の利益を考えて努力する事業家である。」
この言葉は、現代のSDGs(持続可能な社会)やESG経営の考え方にも通じます。
露伴はすでに100年以上前に、**「社会全体の幸福を考える経営」**を説いていたのです。
上級事業家とは、
単に儲ける人ではなく、社会に希望を生む人。
そして、自分の努力を“誰かの未来のために”使える人なのです。
