「共同体感覚が育たない子ども」の特徴とは?|アドラー心理学に学ぶ健全な成長の育み方
共同体感覚が育たない子どもとは?
アドラー心理学では、人間の心理的健康や幸福の基盤は「共同体感覚(Community Feeling)」にあると考えます。
共同体感覚とは、「自分は社会の一員であり、他者に貢献できる存在だ」という感覚のことです。
しかし、すべての子どもが自然にこの感覚を身につけるわけではありません。
アドラーは、『人間知の心理学』の中で、こうした子どもたちの特徴を次のように指摘しています。
「身体に障がいをもっている子ども、無視されて育った子ども、過度に甘やかされた子どもなどに共通する特徴は──
共同体感覚がわずかしか発達していないことである。」
この状態にある子どもは、他者よりも自分のことを優先的に考えてしまい、結果として悲観的な世界観を持ちやすくなると述べています。
共同体感覚が欠けると起こる心理的傾向
共同体感覚が十分に育っていないと、子どもは周囲との関わりの中で不安や孤独を感じやすくなります。
その結果、次のような傾向が見られることがあります。
1. 他者よりも自分のことを優先してしまう
他人の気持ちを考えるよりも、「自分がどう思われるか」「自分が得をするか」を基準に行動してしまう傾向があります。
これは自己中心的というより、“つながりに不安を抱えている”サインとも言えます。
2. 失敗や批判に過敏になる
他者との関係に自信がないため、少しの指摘や否定を「拒絶された」と感じてしまいます。
この敏感さが「どうせ自分なんて」という悲観的な思考につながります。
3. 孤立や依存を繰り返す
他者を信頼できずに距離をとったり、逆に依存的になったりと、安定した人間関係を築きにくくなります。
これは、共同体感覚が育たないことで「他者=脅威」と感じてしまうからです。
なぜ共同体感覚が育たないのか?
アドラーは、共同体感覚の発達を阻む要因として、家庭や周囲の環境の影響を挙げています。
● ① 無視されて育った子ども
愛情や関心を十分に受けられないと、「自分は大切にされない存在だ」と感じやすくなります。
その結果、他者への信頼が育たず、社会との関係性にも不安を抱えるようになります。
● ② 過度に甘やかされた子ども
過剰な保護や介入は、「自分は他者に頼らなければ生きていけない」という依存的な思考を生みます。
他人に対する配慮や責任感が育ちにくくなり、失敗への耐性も弱まります。
● ③ 身体的ハンディキャップを抱える子ども
身体の制約そのものではなく、それに対する周囲の扱い方が問題となることがあります。
過度な同情や特別扱いが続くと、「自分は他人と違う」という感覚が強まり、孤立感を深めることがあります。
いずれの場合も共通しているのは、「他者との信頼関係が十分に築かれていない」という点です。
この信頼の欠如こそが、共同体感覚の発達を妨げる最大の要因です。
悲観的な世界観が生まれる理由
共同体感覚が育たないと、世界は“自分を脅かす場所”として映ります。
他人は助けてくれる存在ではなく、批判したり奪ったりする存在のように感じてしまうのです。
このような子どもたちは、「どうせ自分にはできない」「世の中は不公平だ」という悲観的な世界観を持ちやすくなります。
アドラーはこれを「誤ったライフスタイル」と呼び、そのままでは人生を喜ばしく感じることは難しいと指摘しました。
共同体感覚を育てるための3つのステップ
1. 「自分は役に立てる存在だ」と感じさせる
小さなことで構いません。
家庭の手伝い、動物の世話、友だちへのサポートなど、「自分が人の役に立てた」と感じる体験を重ねることが、共同体感覚の出発点になります。
2. 「ありのままを受け入れる」姿勢を示す
成果や能力ではなく、存在そのものを認めること。
「あなたがいてくれてうれしい」「あなたの考えを聞かせて」といった言葉が、子どもの安心感を育てます。
3. 「勇気づけ」のコミュニケーションを心がける
アドラー心理学で最も大切なのが「勇気づけ(Encouragement)」です。
叱責ではなく、努力や意図を認める言葉を使うことで、子どもは自信と他者への信頼を取り戻します。
まとめ:つながりを感じられる子どもが、しなやかに生きる
- 共同体感覚が育たない子どもは、自己中心的・悲観的になりやすい
- その背景には「信頼関係の欠如」や「誤った養育態度」がある
- 小さな貢献・受容・勇気づけの積み重ねが、共同体感覚を育てる鍵
- 共同体感覚が育つと、子どもは自信と協調性をもって人生を歩める
アドラーは、「人は他者との関係の中でのみ、幸福を感じることができる」と言いました。
つまり、子どもが幸せに生きる力を身につけるには、“つながりを信じる心”を育てることが不可欠です。
家庭や学校で、その小さな芽をどう育てていくか──それが、未来の子どもたちの「しなやかな生き方」を決めていくのです。
