創傷治癒は本来、止血期・炎症期・増殖期・成熟期という4段階を経て完了します。しかし、中には12週間以上経過しても治癒しない創が存在し、これを 慢性創傷(Chronic Wound, CW) と呼びます。
慢性創傷は患者の生活の質を大きく損なうだけでなく、感染・切断・再発といった重大なリスクを伴います。今回は代表的な慢性創傷の種類と病態、そして一般的な管理方法を整理します。
1. 慢性創傷の代表例
(1) 糖尿病性潰瘍(Diabetic Ulcer, DU)
糖尿病性潰瘍は下肢切断の第一原因ともされる深刻な合併症です。
主に 末梢神経障害(感覚低下) と 末梢循環障害 が背景にあり、痛みを自覚しにくいために小さな外傷でも進行してしまいます。
特徴としては:
- 足底に好発
- 深くクレーター状で、腱や骨が露出することもある
- 周囲に角化した組織(胼胝様リング)が形成される
- 骨髄炎を疑う場合は画像検査が必要
(2) 褥瘡(Pressure Ulcer, PU)
褥瘡は仙骨部や踵などの骨突出部に好発します。持続的な圧迫で血流が阻害され、組織壊死へ進行します。
リスク因子は:
- 長期臥床や活動制限
- 栄養障害
- 高齢や全身性疾患
褥瘡は 4段階分類(I〜IV度) で評価され、重症度によっては外科的管理が必要になります。リハビリ職は予防や体位変換が重要な役割となります。
(3) 静脈性潰瘍(Venous Ulcer, VU)
最も頻度の高い慢性創傷で、下腿内果上方(内踝周囲)に好発します。
背景には 静脈弁不全やうっ滞 があり、肥満・高齢もリスク因子です。
臨床的特徴:
- 浮腫、皮膚硬化、色素沈着(ヘモジデリン沈着)
- 脂肪皮膚硬化症や皮膚萎縮を伴うことが多い
治療の基本は 圧迫療法 と 静脈系の改善(外科治療や薬物療法)。しかし再発率が高く、6〜12か月かけてようやく治癒する場合も少なくありません。
2. 慢性創傷の一般的管理 ― TIME原則
慢性創傷は複数因子が絡み合い、治療が難航するのが特徴です。そこで国際的に推奨されるのが TIME原則 です。
- Tissue(組織):壊死組織や不良肉芽はデブリードマンで除去
- Infection/Inflammation(感染・炎症):バイオフィルムを含めてコントロール
- Moisture(滲出液のバランス):乾燥や過剰浸出を防ぐドレッシング選択
- Edge(創縁):過角化や肥厚があれば切除し、上皮化を促す
デブリードマンは週1回以上が推奨され、治癒速度を70%以上改善するという報告もあります。
3. 慢性化のメカニズム
慢性創傷は単に「治りにくい」だけでなく、細胞レベルの異常が関与しています。
- 過剰な炎症反応:好中球・肥満細胞が過剰に集まり、炎症が持続
- マクロファージ機能不全:死細胞や異物の除去が不十分
- MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)活性の亢進
→ コラーゲンや成長因子を分解し、肉芽組織を破壊 - 線維芽細胞の老化:新しい組織形成が停滞
- 角化細胞の異常増殖:創縁が角化して閉鎖を妨げる
- 微生物叢(マイクロバイオーム)の多様性低下:感染や炎症のリスク増大
これらが相互に作用することで「炎症期から抜け出せない」状態となり、治癒が停滞します。
4. リハビリ専門職が関わるポイント
慢性創傷は医師だけでなく、多職種で取り組む必要があります。リハビリ職としては:
- 褥瘡予防:体位変換、除圧、適切なポジショニング
- 循環改善:下肢挙上、運動療法、圧迫療法の指導
- 栄養指導との連携:低栄養は治癒を遅延させるため、栄養士との協力が重要
- 創部観察:ドレッシング交換時に炎症や感染兆候をチェック
患者の生活習慣や基礎疾患を含めてアプローチすることが、再発予防につながります。
まとめ
慢性創傷は以下の特徴を持ちます。
- 代表例:糖尿病性潰瘍・褥瘡・静脈性潰瘍
- 共通点:12週間以上治らず、炎症期から進まない
- 病態:過剰炎症、MMP活性の亢進、細胞老化、微生物叢異常
- 管理:TIME原則に基づくデブリードマン、感染対策、滲出液コントロール、創縁処置
リハビリ職は「創部を治す」直接的役割は少ないかもしれませんが、予防・循環改善・機能維持の面で大きな力を発揮できます。慢性創傷を正しく理解することで、患者の生活の質を守る支援が可能となるでしょう。