『消費税が日本人の賃上げを阻む本当の理由と政治の限界』
国会で浮き彫りになった「消費税の正体」
臨時国会において、ある質疑が「神回」として注目を集めた。参政党の神谷議員に代わり、経済の専門家としての知見を持つ安藤裕氏が突きつけた、消費税の本質に迫る問いである。これまで多くの国民が漠然と感じていた「生活が豊かにならない違和感」を、論理的に言語化した瞬間であったといえる。
期待されたのは、積極財政を掲げて総裁選を戦った高市早苗大臣の答弁である。従来の岸田政権や石破政権が繰り返してきた、財務省主導の緊縮財政とは異なる、責任ある経済政策が語られるはずだった。しかし、そこで返ってきたのは、財務省の用意した答弁書をなぞるだけの、あまりに冷淡な反応であった。この質疑を通じて明らかになったのは、消費税というシステムが抱える構造的な欠陥と、それを是正できない政治の限界である。
赤字でも逃げられない「過酷な税制」
安藤氏の指摘で最も重要だったのは、消費税が「預かり金」ではないという事実の再確認である。財務省は「消費者が負担し、事業者が納付する間接税」と説明するが、実態は大きく異なる。消費税法上、これは事業者の売上に対して課される税であり、価格転嫁できるかどうかは、あくまで市場の力関係で決まる。
長引く不況下において、中小・零細企業の多くは価格転嫁などできていない。それでも納税義務は発生する。法人税であれば、赤字になれば支払う必要はない。しかし消費税は、たとえ赤字であっても、売上があれば容赦なく徴収される。これが「滞納額が最も多い税金」となっている最大の理由である。
事業者が消費者から預かった税金を使い込んでいるわけではない。赤字経営で資金が枯渇している中、さらに税負担がのしかかり、倒産や廃業に追い込まれる。これが消費税の残酷な実態であるといえる。
なぜ消費税は「賃上げ」を殺すのか
さらに深刻なのは、消費税が「賃上げ」を構造的に阻害している点である。ここを理解せずに、経済成長はあり得ない。
企業の会計構造をシンプルに見れば答えは明白である。売上から経費を引いたものが「利益」であり、法人税はこの利益に対して課税される。もし企業が従業員の給料を上げれば、経費が増えて利益は減るため、法人税の支払い額は減少する。つまり、法人税制において賃上げは「節税」の効果を持ち、企業にとって合理的な選択となり得る。
しかし、消費税は違う。消費税の課税対象は、利益だけでなく、人件費を含めた「付加価値」全体に及ぶ。どれだけ賃上げをして利益を圧縮しようとも、消費税の納税額は変わらない。むしろ、人件費は仕入れ税額控除の対象外であるため、人を雇い、給料を上げるほど、消費税の負担感は重くのしかかる。
「法人税を上げてでも消費税を廃止すべき」という議論の根拠はここにある。消費税をなくせば、企業は法人税対策として利益を圧縮しようとし、その資金は内部留保ではなく、設備投資や賃上げへと還流していくからである。
政治家の変節と国民の絶望
安藤氏が論理的にこの「賃上げ妨害税」としての側面を指摘したのに対し、高市大臣の回答は耳を疑うものであった。「消費税が賃上げを阻害するという指摘は当たらない」「応能負担の原則は損なわれていない」という。
子どもが買う駄菓子にも一律にかかる税金のどこに「応能負担(能力に応じた負担)」があるというのか。赤字企業からむしり取ることが、正しい税制といえるのか。かつて積極財政を謳った政治家が、権力の中枢に座った途端、財務省の論理に染まり、国民の窮状を無視する。その姿に、多くの支持者が失望を覚えたのは無理もないことである。
この国会質疑で見えた現実は重い。正しい貨幣観を持つ議員が増え、議論の質が上がっても、政権中枢が変わらなければ政策は動かない。消費税という足かせがある限り、日本経済の真の再生、そして私たち国民の給料が上がる未来は、まだ遠いといわざるを得ない。
