拘縮の分類の重要性
拘縮は、関節運動の求心性を乱し、疼痛や動作障害を招く機能障害です。臨床では原因組織によって「皮膚性」「筋性」「靭帯性」「腱性」「関節性」に分類されます。それぞれの特性を理解することは、評価や運動療法の選択に直結します。以下に各タイプの特徴を整理します。
1) 皮膚性拘縮
皮膚性拘縮は、皮膚や皮下組織の伸張性が低下することで生じます。皮膚は表皮・真皮・皮下組織と層状構造をなし、特に皮下組織は浅筋膜として深筋膜と連結しています。ここで癒着や瘢痕化が起こると、滑走性が低下し、動作制限につながります。
特徴として、
- 外傷・熱傷・手術後の瘢痕化
- 浮腫の滞留による柔軟性低下
- ケロイド形成による強固な癒着
などが挙げられます。
臨床では、下腿骨折や足関節骨折の術後にしばしば観察され、過度な伸張負荷はかえって瘢痕化を悪化させるため、術後早期は慎重な介入が求められます。
2) 筋性拘縮
筋性拘縮は、筋そのものの伸張性や周囲との滑走性が低下することで生じます。筋はコラーゲン線維を含む柔軟な組織ですが、不動や外傷によって変性すると短縮や癒着を起こします。
病態は大きく2つに分かれます。
- 伸張障害:筋自体が瘢痕化し、十分に伸びなくなる
- 滑走障害:筋と骨や隣接組織との間に癒着が生じ、動きが制限される
足関節周囲筋は滑走部が広く、特に滑走障害が多いのが特徴です。臨床では、触診を通じて「伸張性の低下」か「滑走性の障害」かを見極めることが重要であり、病態に応じてストレッチングや徒手療法のアプローチを使い分けます。
3) 靭帯性拘縮
靭帯性拘縮は、靭帯そのものの伸張性低下や周囲組織との癒着によって生じます。靭帯は緻密な結合組織で柔軟性に乏しく、過度に早期から緊張が生じると関節可動域を制限します。
足関節では、三角靭帯などが代表的に関与します。例えば後脛距部に拘縮があると、背屈に伴う距骨の後方移動が制限され、背屈制限が生じます。評価においては、靭帯のどの部位で癒着や緊張が起きているかを把握することが肝要です。
4) 腱性拘縮
腱性拘縮は、腱と周辺組織との癒着(滑走障害)によって発生します。腱そのものは強い抗張力を持つため、伸張性低下そのものよりも滑走障害が主体となります。
臨床でよく経験するのは、外傷後や開放骨折後、手術操作部位での腱と皮下組織・筋膜との癒着です。評価の際には「腱固定効果(tenodesis action)」を利用することが有効です。例えば足関節を背屈させた時と底屈させた時の足趾可動域の違いを観察することで、腱癒着の有無を推定できます。
5) 関節性拘縮
関節性拘縮は、関節包や滑膜の伸張性低下、または周辺組織との癒着によって生じます。関節包は「緩む」か「張る」かという性質を持ち、持続的な不良肢位や関節内血腫の貯留によって癒着が形成されやすいのが特徴です。
例えば、足関節が底屈位で長期間固定されると、後方関節包に癒着が起こりやすく、背屈可動域が制限されます。関節性拘縮は強固なROM制限をもたらすため、徒手的介入に加え、関節内環境を考慮した運動療法が求められます。
まとめ
拘縮は原因となる組織によって、皮膚性・筋性・靭帯性・腱性・関節性に分類されます。それぞれの病態は異なるメカニズムで可動域制限を引き起こすため、臨床では「どの組織に起因しているか」を見極めることが不可欠です。
評価と治療の精度を高めるためには、伸張障害か滑走障害かの判断に加えて、病変部位の特性を理解し、それに応じた運動療法を選択することが重要です。
患者一人ひとりの拘縮の背景を的確に捉え、適切に介入することが、動作改善と生活の質向上につながります。