拘縮とは?
拘縮(contracture)とは、他動的に関節の可動域が制限された状態を指す医学用語です。原因となるのは皮膚・筋・靭帯・関節包・脂肪組織などの軟部組織であり、熱傷や外傷、長期固定といった要因によって組織が変性・癒着することで発生します。
臨床の現場において、拘縮は理学療法士や作業療法士が最も頻繁に対応する機能障害のひとつです。特に関節拘縮は、動作制限や日常生活動作の低下を招くため、正確な評価と治療が不可欠です。
伸張障害と滑走障害
拘縮による可動域制限を理解する際には、「伸張障害」と「滑走障害」という二つの病態を区別することが重要です。
- 伸張障害:筋や靭帯など、伸張性が必要な組織が短縮し、十分に伸びなくなることで可動域が制限される状態。
- 滑走障害:組織同士の癒着や線維化によって滑走性が低下し、可動域が制限される状態。
例えば、長母趾屈筋を例にとると、
- 筋自体が短縮して背屈が制限される場合は「伸張障害」、
- 脛骨後縁と筋の間で癒着が起こり、滑走が妨げられる場合は「滑走障害」
と整理できます。
このように、同じ「背屈制限」であっても原因となる病態が異なれば、治療戦略も異なります。
拘縮が与える影響
拘縮は単に関節の動きを制限するだけではなく、運動学的にも重大な影響を及ぼします。
例えば、足関節後方の関節包は本来、背屈の最終域でのみ緊張します。しかし、拘縮がある場合には、背屈途中から緊張が高まり、関節運動を早期に制限してしまいます。その結果、関節は本来の軌道から逸脱し、関節前方には過剰な圧縮力がかかり、疼痛の原因となることがあります。
このように、拘縮は関節運動の求心性を乱し、正常な関節運動を阻害します。周囲の筋緊張を高めたり、侵害受容刺激を生じさせたりすることで、疼痛や機能障害を引き起こしやすくなるのです。
Oblique Translation 理論とは
拘縮の病態を理解するうえで有用なのが「oblique translation 理論」です。これは、隣接する組織の硬度バランスが異なることで関節軸が変位し、正常な関節運動が阻害されるという考え方です。
関節軸は運動の中心点であるため、軸の偏位は運動軌道そのものの乱れを意味します。拘縮によって関節包や靭帯が早期に緊張すると、軸は本来の位置からずれ、関節は偏った運動を強いられることになります。この結果、
- 関節周囲筋の異常収縮
- 痛みの発生
- 関節症性変化のリスク上昇
といった二次的な問題を誘発します。
臨床における評価と介入の重要性
拘縮は「動作の制限」と「疼痛の原因」という二重の問題を引き起こすため、臨床における正確な評価が求められます。
- 伸張障害か滑走障害かを見極める
- 関節軸や運動軌道の偏位を観察する
- 疼痛の発生機序を理解する
これらを踏まえたうえで、ストレッチング、関節モビライゼーション、筋膜リリースなどの徒手療法や運動療法を組み合わせて治療を行うことが重要です。
まとめ
拘縮とは、他動的に可動域が制限された状態であり、軟部組織の短縮や癒着が原因で発生します。その病態は「伸張障害」と「滑走障害」に分けて理解すると整理しやすく、治療戦略の立案にも直結します。
さらに、拘縮は関節軸の偏位を生じさせ、疼痛や関節症性変化を引き起こす可能性があります。臨床家は、単なる「ROM制限」として捉えるのではなく、機能解剖学的な観点から拘縮を評価・治療することが求められます。
患者の生活機能を改善するために、拘縮の理解と適切な介入は欠かせないアプローチといえるでしょう。