自分にできることとできないこと
「あるものはわれわれの力の内にあり、あるものはそうではない。」
ストア哲学者エピクテトスは『提要』の冒頭でこう語ります。私たちはしばしば、自分の手には負えないことに心をすり減らし、逆に自分で変えられることをおろそかにしてしまいます。
彼の教えを一言でまとめれば、**「コントロールできることに集中し、できないことは手放せ」**です。
力の内にあるもの
エピクテトスは、自分の意志が及ぶものを「われわれの力の内にあるもの」と呼びました。
- 意見
- 選択
- 欲求
- 忌避(避けたいものを判断すること)
これらは誰にも奪えない、私たち固有の領域です。つまり、心の持ち方や態度は常に自分のコントロール下にあるということです。
力の外にあるもの
一方で、次のようなものは私たちの力の外にあります。
- 肉体(病気や老化を完全に避けることはできない)
- 財産(景気や社会情勢に左右される)
- 名声(他人の評価に依存する)
これらは一見すると大事に思えますが、完全に自分で操ることはできません。にもかかわらず、私たちはしばしばここに執着し、ストレスや不安を抱えてしまいます。
状況は選べないが「見方」は選べる
「今日一日、君は自分の外側で起きる出来事をコントロールできないだろう。」
たとえば、突然の雨や電車の遅延、上司の機嫌。他人や環境は自分の思い通りになりません。
しかし、その出来事をどう解釈するかは自分の自由です。
- 雨を「不便」と見るか「恵み」と見るか
- 批判を「攻撃」と捉えるか「改善の機会」と捉えるか
- 失敗を「終わり」と捉えるか「学び」と捉えるか
状況を変えられなくても、見方を変えれば現実は変わるのです。
自分にコントロールできる範囲を理解するメリット
- ストレスが減る
不確実なものに振り回されず、心の安定を保てる。 - 集中力が高まる
自分にできることだけにエネルギーを注げる。 - 主体性が強まる
他人の反応や外的要因に依存せず、自分の価値観に従える。
この姿勢こそ、ストア哲学が説く「心の自由」です。
日常で実践する方法
- 今日の中で「できること」と「できないこと」を書き分ける
例:プレゼンの出来(できること)/聴衆の反応(できないこと) - 「これは自分で変えられるか?」と自問する習慣を持つ
感情的に反応する前に一度立ち止まる。 - 自分の態度や考え方を最優先に整える
状況を責めるより、自分の姿勢を磨くことに注力する。
まとめ
エピクテトスが説いたように、人生には二つの領域しかありません。
- コントロールできるもの → 自分の意見、選択、態度
- コントロールできないもの → 他人、環境、偶然の出来事
前者に集中し、後者を手放すことで、心は驚くほど軽くなります。
今日一日、外的な出来事に煩わされたときは「これは自分の力の内か、外か?」と問いかけてみましょう。その瞬間から、心は少しずつ自由を取り戻していきます。