供給ショックが生む物価上昇の正体
供給の制約が物価を押し上げる仕組み
コストプッシュ・インフレとは、財やサービスの供給が何らかの理由で減少し、それによって物価が持続的に上昇する現象を指す。原油価格の高騰や食料の不作、輸入規制、自然災害や疫病による生産設備・労働力の損失など、供給側のショックが直接的な引き金となる。
少子高齢化もその一つである。生産年齢人口が減少すると労働力の供給が細り、企業は限られた人材を確保するために賃金を引き上げざるを得ない。その結果、コストが上昇し、物価を押し上げる。このように供給力の低下が続くと、コストプッシュ・インフレは長期化しやすい。
支配力を持つ企業が生む価格上昇
供給制約は自然現象だけでなく、市場構造によって引き起こされることもある。独占企業や寡占企業が価格決定力を持つ場合、利益率を高めるために価格を引き上げ、それが広く物価に波及していく。
例えば電力会社が典型で、電力料金が上がれば、電力を利用する多くの企業のコストが増える。食品、物流、製造業など、経済のあらゆる分野に影響が及び、結果として物価全体を押し上げることになる。
為替の影響と「輸入インフレ」
自国通貨が安くなると、輸入品の価格が上昇する。これもコストプッシュ・インフレに含まれる。国内の需要が増えているわけではなく、輸入品の供給条件が悪化しているためである。
海外需要の高まりによって輸入財価格が上昇するケースも同様に扱われる。たとえば中国で大豆需要が急増すれば、日本の輸入価格も上がる。世界全体で見ればデマンドプルだが、日本にとっては供給の制約による物価上昇であり、コストプッシュと捉えるのが妥当だといえる。
戦争が引き起こす二つのインフレ
戦争はしばしばインフレを招くが、その理由は二つある。軍事需要の急増によるデマンドプル要因、そして生産設備の破壊や労働力の喪失といったコストプッシュ要因である。
前者は需要の急拡大による物価上昇、後者は供給能力の低下による価格上昇である。戦時下でインフレが深刻化しやすいのは、これらが同時に起こり、互いに物価上昇を強めるからだといえる。
持続的な供給ショックとは何か
では、コストプッシュ要因によって物価が“持続的に”上昇するのは、どのようなケースなのか。一時的な供給不足が解消すれば、価格は元に戻るため、これは本来のインフレとは異なる。
持続的なインフレが起きるのは、供給制約そのものが長期化し、経済の回復より速いペースでコストが上昇し続ける場合である。例えば、慢性的な人手不足、長期的な資源価格の高止まり、規制や貿易摩擦による供給経路の恒常的な分断などである。
企業がコスト増を価格へ転嫁し続ける状況が続けば、物価上昇は固定化し、抜け出すことが難しくなる。供給面の問題が深刻化すると、金融政策だけでは対処できない理由がここにある。
