政治・経済

『物価は上がるのに給料は増えない?「悪いインフレ」の正体』

taka

デフレーションの本質と誤解

今回は「コストプッシュ型インフレ」という、現代経済において非常に厄介な現象について解説する。 本題に入る前に、まず多くの人が誤解している「デフレーション」、いわゆるデフレの定義を正しておきたい。 デフレとは、単にモノの値段が下がることだけを指すのではない。 本来の意味は「しぼむ」「縮む」ということであり、経済においては、生産・需要・所得のパイであるGDP全体が縮小していく現象を指す。

GDPが小さくなるということは、すなわち私たちの所得が下落するということである。 給料が減れば、当然ながら財布の紐は固くなり、消費を控えるようになるだろう。 すると、次の需要がさらに縮小してしまう。 「所得の下落」と「需要の縮小」が悪循環を描いて経済全体が沈んでいくこと、これこそがデフレの正体である。 通常、モノが売れないデフレ下では、企業は価格を下げてでも売り切ろうとするため、物価は下落していくのが一般的といえる。

所得が増えない物価上昇のカラクリ

しかし、経済には例外がある。 需要が冷え込んでいるにもかかわらず、物価だけが上昇していくという不気味な現象が存在するのだ。 それが、輸入物価の上昇を起因とした「コストプッシュ型インフレ」である。

このメカニズムを理解するために、経済の基本原則である「所得創出のプロセス」を思い出してほしい。circular flow of income economy diagramの画像

Getty Images

私たちが財やサービスを生産し、誰かがそれを購入(支出)することで、そこに所得が生まれる。 マクロ経済の原則として、生産、支出、所得の3つは必ずイコールになるという「三面等価の原則」がある。 もし、日本国内で生産者が財やサービスの単価を10%値上げしたとしよう。 購入する側は10%多く支払うことになるが、その分、生産者の所得も10%増えることになる。 つまり、国内だけで完結する値上げであれば、物価上昇と同時に、国全体の名目所得もまた上昇するはずなのである。

豊かさが海外へ流出する悲劇

ところが、この値上げの原因が「輸入物価の上昇」だった場合は、話がまったく変わってくる。 例えば、外国から輸入するLNG(液化天然ガス)の価格が高騰し、電気代やガス代が10%上がったとする。 私たちは当然、10%余計にお金を支払わなければならない。 しかし、その増えた支払い分は誰の所得になるのだろうか。 それは日本の電力会社でも、私たち国民でもない。 海の向こうにいる、外国のエネルギー生産者の所得が増えるだけなのである。

ここが決定的な違いといえる。 輸入物価の上昇によるインフレでは、私たちの支払金額は増えるものの、日本国内の所得は1円も増えないのだ。 名目の所得が増え潤うのは海外であり、日本国民はただ一方的に支出を強いられることになる。 これが、輸入物価上昇に起因するコストプッシュ型インフレの残酷な構造である。

需要不足と物価高の二重苦

結果として何が起こるか。 所得が増えない状況で、生活必需品のコストだけが上昇する。 それはつまり、私たちの手元に残る自由に使えるお金、「可処分所得」が減少することを意味する。 可処分所得を奪われた私たちは、趣味や外食、あるいは投資といった「次の消費」をさらに減らさざるを得なくなる。 その結果、国内の需要不足は解消されるどころか、むしろ拡大する方向へと向かっていく。

本来、インフレは景気が過熱する局面で起こるものだが、このケースに限っては異なる。 「物価の上昇」と「不況(需要不足)」が同時に襲いかかるスタグフレーションの入り口。 それこそが、コストプッシュ型インフレの正体なのである。

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TAKA
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理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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