一日は、あっという間に過ぎていきます。仕事、家事、人とのやりとりに追われていると、気がつけば夜になっていて、「今日、自分は何をしたのだろう?」とぼんやりすることはないでしょうか。
古代ローマの哲学者セネカは、兄ノウァトゥスに宛てた書簡の中でこう述べています。
「私は、絶えず自分自身を観察することにしよう。そして、その何よりの方法として、一日一日を振り返ることにしよう。…将来の計画は過去から生まれるのだ」
つまり、未来を良くしたいなら、まず過去を振り返らなければならない。これがセネカの指摘です。
一日の終わりに問うべきこと
セネカが紹介した訓練法は、非常にシンプルでありながら奥深いものです。毎晩、自分に問いかけるのです。
- 今日一日、どんな悪い習慣を抑えられただろうか?
- どんな点でよくなったか?
- 自分の行いは正しかったか?
- どうすればもっとよくなれるか?
この習慣は、ストア派の哲学者たちにとって日常的な「修行」でした。
『自省録』は日誌だった
マルクス・アウレリウスの『自省録』は、哲学の名著として広く読まれています。しかし本来は、彼が「自分自身に語りかけるために書いた日誌」でした。
そこに書かれているのは、他者を啓蒙するための言葉ではなく、自分の心を省みるための問いかけです。つまり、『自省録』は「一日の振り返り」が積み重なった記録そのものなのです。
振り返りの効用
一日の振り返りには、いくつもの効果があります。
- 改善点が明確になる
自分の行動や言葉を振り返ることで、何を変えるべきかがはっきりします。 - 記憶が定着する
書き留めることで、出来事や気づきが頭に残りやすくなります。 - 進歩を実感できる
日々の記録を振り返ると、自分がどれだけ成長してきたかが見えてきます。 - 心が落ち着く
振り返る時間を持つことで、気持ちを整理し、安心して一日を終えることができます。
どう実践するか?
セネカの教えを現代的に取り入れるなら、次のような方法が考えられます。
- 日誌を書く:ノートや手帳、あるいはパソコンやスマホに記録する。
- 質問に答える形式にする:「今日よかったことは?」「改善すべき点は?」と決まった問いを用意すると続けやすい。
- 短くてもよい:3行でも十分。大切なのは続けること。
- ポジティブな面も書く:反省だけでなく、感謝や幸せに感じたことも記録すると前向きになれる。
「日々の祈り」のように
セネカは、一日の振り返りを「祈祷や賛美歌」にたとえています。信仰を持つ人が毎日祈るように、哲学を学ぶ者は自分の行いを観察し、問い直す。
それは決して楽な作業ではありません。時には、自分の弱さや不完全さに直面して苦しくなることもあります。しかし、その積み重ねこそが「よりよく生きる」ことにつながります。
まとめ
セネカが勧めた「一日を振り返る習慣」は、私たちにとっても大きな意味を持ちます。
- 将来の計画は過去から生まれる
- 毎日、自分に問いかけることで改善点が見える
- 記録を続ければ、成長の足跡が残る
未来を変える力は、明日のことを考えるだけでは得られません。今日という一日を丁寧に振り返り、その経験を次の日へとつなげていくことが、確かな変化を生むのです。
👉 今夜、寝る前に5分だけ時間をとってみましょう。「今日、どんなことに感謝できるか?」「改善できることは何か?」と自分に問いかけてみてください。その小さな習慣が、やがて大きな成長をもたらすはずです。