自己啓発

「急成長の罠」──幸田露伴『努力論』に学ぶ、成功の勢いが危機を招く理由

taka

成功の瞬間こそ、最も危険なとき

幸田露伴の『努力論』には、時代を超えて通用する“人と事業の原理”が詰まっています。
第212節「事業は急に成長するときが一番危ない」では、
成功の裏に潜む「崩壊の予兆」について、露伴らしい比喩で警鐘を鳴らしています。

「枝葉がよく茂る盆栽は梢枯や裾廃などの病気を起こして枯れ果ててしまうものが多い。よく茂らない盆栽はかえって安全だ。」

露伴は、盆栽の成長を例にして、
事業や人間の成長にも「急な繁栄は危険をはらむ」と説いているのです。


「よく茂る盆栽」は枯れやすい

盆栽の世界では、枝葉が急に伸びて青々と茂ると、
根や幹がその成長に追いつかず、結果的に「枯れる」ことがあります。

露伴はこれを人間や企業の成長に重ねます。

「これは事業の場合でも同じで、あまり急に発展成長しないほうがかえって安全なのだ。」

つまり、成長そのものが危険なのではなく、成長の“速さ”が危険なのです。

事業が急に拡大すると、

  • 経営体制が追いつかない
  • 資金繰りが不安定になる
  • 組織の統率が乱れる
    など、さまざまな“見えない歪み”が生まれます。

それを放置すれば、やがて事業全体を枯らす「内部崩壊」を招くことになるのです。


「急拡大の落とし穴」に陥る理由

露伴は続けて、こう警告します。

「実際、事業を急激に拡大して利益を急増させたような場合に、大きな落とし穴に陥り悲劇を招く例は世の中に極めて多い。」

この「落とし穴」とは何でしょうか?
現代でいえば、以下のようなケースが当てはまります。

  • 売上が一気に伸びたことで、無理な設備投資をしてしまう
  • 需要の見通しが甘く、在庫が膨れ上がる
  • 一時的なブームを実力と勘違いし、経営判断を誤る

露伴の指摘は、100年以上前に書かれたにもかかわらず、
現代の企業経営やベンチャーの失敗例に驚くほど通じます。


「生産過剰」は自滅の始まり

露伴はさらに例を挙げて、危機の構造を明らかにします。

「少し成功しかかっている事業などで急激に設備投資を増やして生産能力を拡大したときには、生産過剰によって大損害をこうむることがある。」

成功の勢いに乗って一気に拡大しようとする──。
この「攻めの経営」が、実は最大のリスクになるというのです。

露伴は、そんな状況を次のようにたとえます。

「これは細菌が自分の老廃物のためにもがき苦しむのと同じことだ。」

つまり、過剰な成長は自らを蝕む毒になる
成長のスピードが自分の「代謝能力(経営力)」を超えてしまえば、
その余剰はやがて負担として跳ね返ってくるのです。


「成長=善」という錯覚を捨てよ

現代社会では、「成長」は常に「良いこと」とされます。
経済成長、企業成長、個人のスキルアップ──どれも“前進”の象徴です。

しかし、露伴の視点はもっと冷静で現実的です。

「あまり急に発展成長しないほうがかえって安全なのだ。」

露伴が説くのは、「持続可能な成長」の重要性。
つまり、成長よりも安定・調和・継続を重んじる生き方です。

  • 「成長すること」ではなく「長く続けること」
  • 「勢い」ではなく「基礎の充実」
  • 「拡大」ではなく「内側の成熟」

この視点を持つことが、真の事業家への第一歩なのです。


成功を持続させるための3つの心得

露伴の教えを現代的に活かすなら、次の3つの視点が重要です。

  1. 勢いに乗っても、冷静な計算を忘れない
     利益が出たときこそ、リスクを見つめる余裕を持つ。
  2. “成長の速度”ではなく“質”を重視する
     数字の伸びより、顧客満足や信頼の蓄積を大切にする。
  3. 地味な努力を恐れない
     派手な拡大よりも、地道な改善のほうが結果的に強い基盤をつくる。

露伴が理想としたのは、「静かに、しかし確実に伸びる事業」。
それは、どんな時代でも生き残る経営の本質です。


おわりに:ゆるやかな成長こそ、真の繁栄

幸田露伴の『努力論』は、努力の量ではなく、**努力の“方向”**を問う書です。

「事業は急に成長するときが一番危ない。」

この言葉は、成長を恐れよという意味ではありません。
むしろ、「成長を制御する知恵を持て」という警告です。

焦らず、慌てず、着実に──。
露伴の言葉は、現代のビジネス社会における“持続的成長”の原理として、今なお生きています。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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