「楽な道ばかり選ぶと、人は弱くなる」──幸田露伴『努力論』に学ぶ“精神力を鍛える生き方”
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「一時の幸運にだまされなければ、運命に押しつぶされることもない……そういう者は順境のときにもおごらず、運命が変わっても平気である。彼らの理性的な魂は順境、逆境のどちらに対してもぐらつかず、びくともしない。というのも、まさに順境のときに彼らは、逆境に対処できる力を示してみせるからである」――セネカ『ヘルウィアに寄せる慰めの書』。
西暦41年、セネカはローマからコルシカ島に追放されました。理由は定かではありませんが、皇帝の姉妹との不義の噂が原因とされます。当時、セネカは政治家として成功を収め、社会的にも高い地位にありました。その分、転落は大きな打撃だったでしょう。
追放後、彼は悲嘆に暮れる母ヘルウィアを慰める手紙を書きました。しかしその手紙は、母への慰めであると同時に、自分自身に向けた言葉でもありました。セネカは、自分の不幸をただ嘆くのではなく、哲学を支えにして忍耐と覚悟を持ち続けたのです。
セネカは追放の苦しみを哲学によって乗り越えました。そして、やがてローマに復帰し権力を取り戻したときも、有頂天にはならず、幸運にしがみつくこともありませんでした。なぜなら、彼は運命が再び変転することを知っていたからです。
実際に新たな皇帝の怒りを買ったときも、セネカは哲学のおかげでその最期を受け入れる覚悟ができていました。彼にとって哲学は、ただの学問ではなく「順境と逆境のどちらにも備える心の訓練」だったのです。
私たちの人生でも、幸運と不運は波のように押し寄せてきます。仕事の成功や経済的な安定は、いつまでも続く保証はありません。一方で、失敗や挫折も永遠には続きません。大切なのは、それらに一喜一憂しすぎないことです。
幸運にだまされず、逆境におびえない――そのための準備は、日々の小さな鍛錬から始まります。