はじめに
糖尿病患者の下肢合併症の中でも、足潰瘍はもっとも深刻な問題の一つです。感染や下肢切断のリスクを高めるだけでなく、生活の質を著しく低下させ、糖尿病医療費の増加に直結します。
その背景には、末梢神経障害(ニューロパチー)による感覚消失と、足部の生体力学的異常が大きく関与しています。特に足底脂肪組織(fat pad)の変化は、足潰瘍発症の重要なリスク因子とされています。
足底脂肪組織と潰瘍形成の関係
通常、踵や前足部の脂肪組織はクッションの役割を果たし、骨や軟部組織を保護しています。
しかし、糖尿病性ニューロパチーでは以下のような変化が報告されています。
- 脂肪細胞の萎縮や減少
- 脂肪組織の硬化(コラーゲン線維の増加)
- 弾力性の低下
- 脂肪‐水分比率の変化
これらは結果的に局所的な足底圧の上昇を招き、足潰瘍の発症リスクを高めます。
研究概要(Amsterdam UMC, Cross-sectional Study)
オランダ・アムステルダム大学医療センターでは、糖尿病性ニューロパチー患者14名と健常対照者5名を対象に、以下の評価を行いました。
- Dixon MRIによる踵脂肪組織の脂肪‐水分比率解析
- 歩行時の足底圧測定(EMED-NTプラットフォーム使用)
主な結果
- 脂肪シグナル強度は糖尿病群で有意に低下(300 ± 106 vs 521 ± 57, P < 0.001)。
- 脂肪シグナル分率も糖尿病群で低下(0.55 ± 0.11 vs 0.72 ± 0.03, P < 0.001)。
- 踵の足底圧は糖尿病群で高値(391 ± 119 kPa vs 325 ± 53 kPa)、統計的有意差はなし。
- 糖尿病群では、脂肪シグナル分率と足底圧に有意な逆相関(r = −0.59, P < 0.05)。
考察
この研究は、糖尿病性ニューロパチー患者の踵脂肪組織における脂肪含有量の低下を明らかにしました。
- 主因は「水分の増加」よりも**脂肪組織の喪失(萎縮)**の可能性が高い。
- この萎縮は、神経障害による組織変化や**高血糖による非酵素的糖化(AGEs)**の影響によると考えられる。
- 結果として、足底圧が増加し、防御機能が低下 → 潰瘍リスク上昇につながる。
臨床的意義
- Dixon MRIは脂肪組織の質的変化を非侵襲的に評価できる有効なツール。
- 足底圧と脂肪組織の関係を解明することで、足潰瘍リスクを早期に検出可能。
- 踵部の評価結果は、より潰瘍が多い前足部にも応用可能と考えられる。
まとめ
- 糖尿病性ニューロパチー患者では、踵脂肪組織の脂肪含有量低下と足底圧上昇が確認された。
- これは足底組織の保護機能低下を示し、足潰瘍リスク増大に直結する。
- Dixon MRIを用いた評価は、今後の足病変予防や早期診断に有望。
👉 今後は、より大規模な研究や前足部での評価が必要とされます。