『PB黒字化という“隠れ緊縮計画”の正体』
国土計画が失われた背景
かつて日本には、長期的な視点で国の土地利用やインフラ整備を描く「国土計画」が存在していた。しかし財務省は、日本国憲法が単年度予算しか認めていないという不可解な理屈を持ち出し、この計画を事実上封じ込めた。
計画はあくまで方針であり、予算そのものとは別物であるはずだが、当時の空気は強烈な緊縮志向に満ち、異論が出る余地はなかった。国の未来を描くための長期計画が「憲法」の名を借りて潰されたという事実は、いま振り返るほどに重い。
緊縮計画としてのPB黒字化
そして2001年、財務省はプライマリーバランス(PB)黒字化という新たな“計画”を導入した。表向きは「○○年度に黒字化する」という目標に見えるが、実態は単純ではない。この年度目標を根拠に、財務省は毎年の赤字削減幅を定め、足りない場合は翌年度に追加の削減を課すという工程表を描いていった。
例えばPB赤字が20兆円、目標を5年後に設定すれば、単純計算で毎年4兆円の赤字削減が必要となる。財政審はその進捗を「毎年度確認」し、翌年度の削減額を更新し続ける。
これこそが、実質的な「毎年度の財政緊縮計画」であり、長期の国土計画を否定した財務省が、緊縮系の“計画”だけは例外として温存した理由である。
“市場の信認”というあいまいな言葉
財政制度等審議会は、金利上昇に備え、基礎的財政収支を毎年確認すべきだと述べている。背景にあるのは「市場からの信認」という抽象的な表現だ。
しかし、この“信認”とは何を示すのか。具体的な指標も定義も示されないまま、財政削減の根拠として利用されている。実体経済を支える公共投資よりも、市場の曖昧な評価を優先させる判断は、結果として国力の低下につながりやすい。
PBがもたらした国力の削り取り
PB黒字化は、公共投資や社会保障費の圧縮を通じ、国民生活に長期的な影響を与えてきた。インフラ老朽化への対応が遅れ、災害対策も後回しにされ、成長の基盤となる分野で投資が抑え込まれた。
本来、政府が責務として守るべき領域まで「財政規律」という名のもとに絞られたのがこの二十年である。結果として需要不足が慢性化し、日本経済は長期停滞に陥った。緊縮の副作用は、今ようやく可視化されてきたといえる。
財務省の論理を見抜く
財政審の存在によって、財務省が何を維持しようとしているのかは読み取れる。彼らが執着しているのはPB黒字化の撤廃ではなく、「毎年度の削減工程」の継続である。すなわち、緊縮を恒常的な政策として固定化しようとしている。
しかし、国を支える計画とは本来、未来への投資を前提に描かれるべきものだ。財政を縮め続ければ、市場が求める“信認”以上に、日本の実力そのものが損なわれていく。
緊縮計画の延命を許さず、積極財政に舵を切ることが、日本社会を立て直す唯一の道である。いま求められているのは、曖昧なレトリックではなく、国民の暮らしと実体経済に根ざした確かな政策だ。
