体外衝撃波療法(ESWT)は膝蓋下脂肪体(IFP)に有効か?KOA前面痛への新しい可能性を解説
体外衝撃波療法(ESWT)とは:整形外科で広く使われる新しい物理療法
体外衝撃波療法(Extracorporeal Shock Wave Therapy:ESWT)は、2008年から医療保険で使用できるようになった治療法で、整形外科領域を中心に急速に普及しています。
特に現在広く使用されるのは、アプリケーターの凸面から拡散型の衝撃波を発生させる
弾道理論(radial型:rESWT) に基づく機器です。
衝撃波は1ショットごとに分散されながら組織へ伝達され、瞬間的に高エネルギーとなって組織内で作用します。
1. ESWTの作用機序:除痛と組織修復の二段構え
ESWTは、
①除痛効果
②組織修復効果
の2つの主要作用が知られています。
● 除痛効果のメカニズム
- 末梢自由神経終末の破壊
- 脊髄後根神経節での神経伝達物質の抑制
これにより照射直後から痛みが軽減されることが多く、複数回照射することで破壊された神経終末の再生抑制が働き、疼痛の再燃が減少する可能性も示されています。
● 組織修復のメカニズム
ESWTは**mechanotransduction(機械刺激 → 生物学的応答)**を誘導します。
代表的な作用は以下の通りです:
- 血管新生促進(VEGFなどの誘導)
- Type Iコラーゲン産生増加
- 炎症性サイトカインの抑制
- 骨形成因子の促進
- 骨形成幹細胞の遊走促進
腱・靱帯・皮膚・骨といった多くの組織で、修復過程を促進する治療として利用が広がっています。
2. rESWTの普及:安全性の高さと取り扱いやすさが臨床導入を後押し
従来は高エネルギーを一点に集中させる fESWT(集束型) が使用されていましたが、
近年はエネルギーが拡散する rESWT(拡散型) が主流となっています。
● rESWT普及の背景
- クラスⅡ医療機器であり安全性が高い
- 痛みが比較的少なく施術しやすい
- 組織損傷リスクが低い
- 幅広い症状に適応しやすい
その結果、整形外科クリニックやリハビリ施設でも導入が増加しています。
3. 変形性膝関節症(KOA)とIFP:膝前面痛の“中心”となる組織
KOAの有症状患者は日本に約800万人とされ、その中には膝前面痛を強く訴える患者も多く存在します。
特に膝蓋下脂肪体(Infrapatellar Fat Pad:IFP)は、
膝関節で最も侵害受容器が多い組織 とされ、痛みの主要部位になり得ます。
● IFPの特徴
- 膝関節包の内側、滑膜の外側に位置
- 膝関節運動に合わせて形態を変化
- 膝蓋上嚢との連動、緩衝作用、摩擦軽減などの役割が推定
本来は柔らかく可動性が高い組織ですが、
外傷・繰り返しの摩擦・炎症により線維化すると硬化し、前面痛を引き起こすことが報告されています。
4. IFP柔軟性低下は痛みの主要因:改善には“線維化の解除”が必要
IFPが線維化すると、
- 膝前面痛
- 深屈曲時のつかえ感
- 可動域制限
- 膝蓋腱との滑走不全
といった機能障害が生じます。
これまでIFP柔軟性改善のために行われてきた方法は、
- テーピング
- 筋膜リリース
などですが、専門性が高く習得に時間が必要という課題があります。
5. IFPへESWTは有効か?—現状の研究はまだ限定的
足底筋膜炎、石灰沈着性腱炎、外側上顆炎といった疾患に対しrESWTの効果は多く報告されています。
しかし、
IFPの炎症や線維化に対するESWTの有効性を示した研究は非常に少ない
のが現状です。
特に、
- IFPの形態変化
- 滑走性改善
- 線維化の減少
- 痛みとの直接関連
を客観的に評価した研究はほとんどありません。
したがって、「IFPへのESWTが本当に有効か?」という問いに対しては、まだ明確なエビデンスが不足している段階です。
6. 今後の展望:超音波エコーがIFP研究を前進させる鍵になる
近年のエコー技術の進歩により、
- IFP
- 滑膜
- 関節包
- 靱帯
- 神経
の微細構造を高精度に描出できるようになりました。
● エコーが可能にすること
- IFP厚みやエコー輝度の評価
- 滑走性の観察
- 血流や滑膜炎の確認
- ESWT施行前後での変化をリアルタイムに検証
これにより、IFPに対するESWTの効果を科学的に検証するための基盤が整いつつあります。
まとめ:ESWTは期待されるが、IFPへの応用は今後の研究が必要
- ESWTは除痛・組織修復に有効であり、腱・骨疾患では広くエビデンスがある
- KOAの膝前面痛にはIFPの線維化や炎症が関与
- IFP柔軟性改善は痛みの改善に不可欠
- ESWTのIFPへの効果はまだ明確な研究が少ない
- エコーを活用した研究が今後の臨床を大きく前進させる可能性あり
IFPの病態解明と新たな治療戦略は、KOA患者の疼痛軽減に向けた重要な次のステップとなるでしょう。
