繰り返される人間の営み
マルクス・アウレリウスは『自省録』の中でこう記しています。
「ウェスパシアヌスの時代を考えてみよ。人々は結婚し、子供を育て、病気になり、死に、戦争をし、祭りを祝い、商いをし……しかしその者たちも死に絶え、その痕跡は残っていない。トラヤヌスの時代も同じこと……」
この言葉は、時代や文化が変わっても、人間の営みは本質的に変わらないことを示しています。私たちは新しい価値観や流行を経験しますが、結婚・子育て・労働・争い・喜びと悲しみといった営みは、古代から現代まで繰り返されてきたのです。
ヘミングウェイも同じ真理を語った
作家アーネスト・ヘミングウェイは代表作『日はまた昇る』の冒頭に聖書の一節を引用しました。
「世は去り、世はきたる。しかし大地は永久に変わらない。日はまた昇り、また入り、その出た所にあえぎゆく」
担当編集者はこれを「古代世界の知恵が全部詰まっている」と評しました。確かに、これは人類が古代から繰り返し思索してきた「変わらない真実」です。人が生き、愛し、争い、死んでいくというサイクルは途切れることなく続いているのです。
「今は特別」という錯覚
現代を生きる私たちは、ともすると「今こそ人類がかつてない地点にいる」と思い込みがちです。テクノロジーの進歩や社会の変化を目の当たりにすると、まるで私たちの時代が人間性を大きく変えてしまったかのように感じます。
しかし、マルクスやヘミングウェイの言葉はその錯覚を打ち砕きます。形を変えて現れているだけで、人間の本質的な営みや欲望は、古代から繰り返されてきたものなのです。
普遍性を知ることで得られる安心感
「すべては繰り返す」という視点を持つと、現代の不安や混乱に飲み込まれにくくなります。
- 試練は新しいものではない
過去の人々も同じように困難を経験し、乗り越えてきた。 - 喜びもまた繰り返される
苦難の後には再び光が訪れる。太陽が昇るように。 - 人間は普遍的な存在
特殊な時代に生きているのではなく、歴史の大きな流れの一部であることを理解する。
日常での実践法
- 歴史を振り返る習慣を持つ
過去の人々も同じ悩みを抱えていたことを知ると、気持ちが落ち着きます。 - ニュースや流行を一歩引いて眺める
「これは過去にも繰り返された現象の一つ」と考えることで、過度に振り回されなくなります。 - 繰り返しを前提に希望を持つ
苦しみもまた一時的であり、やがて新しい喜びに置き換わると信じられるようになります。
まとめ:私たちは短期滞在客
大地は永久に変わりませんが、私たちは短期滞在客にすぎません。マルクス・アウレリウスが言うように、人間の営みは昔から同じように繰り返されてきました。
だからこそ、今の出来事を特別視して一喜一憂するのではなく、普遍的な人間の一部として冷静に受け止めることが大切です。すべては繰り返しであり、その中に生きているという視点が、人生をより穏やかに、力強くしてくれるのです。