私たちが人生で直面する「運命」という存在を、どう捉えるべきか。古代ローマの哲学者セネカと、ルネサンス期の政治思想家マキャベリは、それぞれまったく異なるアプローチを提示しています。
セネカは『倫理書簡集』の中で「運命にすがりつく者だけが運命に攻め込まれる」と述べています。つまり、必要以上に運命に抗おうとすることで、むしろその影響を強く受けてしまうという警告です。彼にとって、運命から身を守る最善の方法は「哲学」という壁の中に身を置き、自らの欲望や恐怖を理性で制御することでした。
一方で、マキャベリは『君主論』において、運命を女性にたとえ「組み伏せ、支配せねばならない」と語ります。この比喩は現代的には極めて暴力的に響きますが、当時の権力闘争の中では「運命を攻め取る」姿勢が当然視されていました。しかし歴史が示すように、そのような支配者の多くは悲惨な最期を迎えています。
ここで浮かび上がるのが「攻撃か守備か?」という問いです。スポーツや戦争の戦術にたとえれば、攻撃を続けてリスクを背負うか、守備を固めて柔軟に受け流すか。人生のスタイルにも似た二つの選択肢があるのです。
もちろん、この問いに「正解」はありません。リーダーシップを発揮する場面では攻める姿勢が必要なこともありますし、逆境を乗り越えるには守りを固めて持久戦に徹することもあるでしょう。重要なのは、自分がどちらのタイプであるかを知り、状況に応じて切り替えられる柔軟さを持つことです。
セネカの考えを現代に活かすなら、まず「内面の強さ」を養うことが鍵となります。哲学的思考とは、必ずしも難解な古典を読むことではなく、自分の感情を客観的に観察し、欲望や不安に振り回されない態度を持つことです。
一方で、マキャベリの発想から学べるのは「運命に委ねすぎてはいけない」という姿勢です。積極的に環境を切り開く力がなければ、流されるだけの人生になってしまいます。
つまり、攻撃か守備かという二択ではなく、「両方をバランスよく使い分ける」ことが、現代に生きる私たちに求められる戦略と言えるでしょう。
あなたはどちらのスタイルが得意ですか?攻め続けるタイプか、それとも守りを固めるタイプか。答えはあなた自身しか出せません。しかし、セネカが語ったように「哲学という壁」を持つことで、攻撃も守備も冷静に選び取ることができるのです。
最期をどう迎えるかは誰にもわかりません。ですが、自分らしい戦い方を意識して選んでいくことは、今この瞬間からできるのです。