財政均衡主義の幻想――日本を覆う不整合の正体
あらわになった財政議論の不整合
高市早苗内閣の発足以降、日本の財政運営に潜む「不整合」が一層明確になってきた。象徴的なのが、ガソリン税の暫定税率廃止に伴う1.5兆円の税収減には財源論が噴出した一方で、累計8兆円を超えたガソリン補助金では財源論が一度も問題視されなかったという事実である。
言うまでもなく、「補助金も財源を議論せよ」と主張したいわけではない。この対照的な反応が示すのは、財政均衡主義というユートピア的理念と、現実の政策運営との間で生じている深い葛藤だ。
PB目標と現実路線の矛盾
プライマリーバランス黒字化目標を維持したまま補正予算を組む時点で、すでに矛盾は生じている。理念としての財政均衡主義を掲げながら、実務では国債を発行して支出を拡大する。両者の間には整合性が存在しない。
さらに問題なのは、財政均衡主義の維持を金利や為替レートに結び付け、指標転換を妨害しようとする動きである。特に「金利上昇が必要」だという論調が、その裏側で政府債務対GDP比率を意図的に悪化させ、PB黒字化目標を正当化する道具として使われている点は看過できない。
金利は日銀、為替は財務省――基礎的事実の軽視
そもそも国債金利が問題だというなら、日本銀行が買いオペレーションを増やせばいいだけの話である。植田日銀総裁もその可能性を認めており、これは通常業務の範疇にある。
一方、為替レートは本来財務省の所管であり、日本銀行の役割ではない。外為特会には200兆円相当の外貨準備があり、円安が問題だというなら財務省が為替介入すれば済むことだ。それにもかかわらず、円安を理由に日銀へ利上げを要求する声が上がり続けている。
失われる金融主権という重大な危険
為替レートを理由に日銀が金利を引き上げれば、日本の金融政策が為替市場に従属することになる。これは、日本国民が金融主権を失うことを意味し、極めて重大な問題である。
にもかかわらず、こうした構造を理解しないまま、「円安だから利上げ」といった安易な主張が繰り返され、論調として定着しつつある。金融政策の基礎を無視した議論が、あたかも正論のように流通していることこそ、いまの日本が抱える深刻な症状である。
日本は狂っているのか、それとも思考停止なのか
財政均衡主義に基づくユートピアと、現実の政策運営との矛盾。その間で失われていく整合性と判断力。
日本は狂ってしまったのか。それとも誰もが思考停止に陥り、「それっぽい主張」に流されているだけなのか。
答えは単純ではない。しかし確かなのは、財政や金融政策の基礎を理解しないまま議論を続けることが、国家の進路を誤らせるという点である。いま必要なのは、不整合を一つずつ洗い出し、政治ゲームの外側にある事実に向き合う姿勢だといえる。
