フランクリンが語る「規律」の本当の壁:記憶力よりも“仕組み”が大切な理由
「13の徳」の中でも、フランクリンが特に苦労したのが「規律(Order)」でした。
「自分のモノは、すべて置き場所を決めて整理整頓せよ」というこの戒律は、
頭では正しいとわかっていても、実際に続けるのが最も難しかったと彼は告白しています。
理由は意外にも――彼自身の「優れた記憶力」にありました。
■ 記憶力が良い人ほど「整理」を軽視してしまう
フランクリンは、自分がどこに何を置いたかをすぐ思い出せたため、
整理整頓を怠っても「不便を感じない」生活を送っていました。
「子どもの頃からそういう習慣をもっていなかったし、
記憶力がものすごく良いので、なにをどこに置いたかを覚えている。
だから、乱雑にしていても、とくに不便を感じなかった。」
この“なんとなく覚えている”という感覚こそが、整理の敵です。
一見、問題ないように思えても、いざ忙しくなったり他人と共有したりすると、
「自分しかわからない仕組み」は大きな障害になります。
フランクリンはこの落とし穴に気づき、
**「記憶ではなく、仕組みで秩序を保つ必要がある」**と悟りました。
■ 習慣を変えるのは、理屈ではなく「環境」
フランクリンは何度も整理を試みましたが、すぐに乱れてしまいました。
彼は正直にこう書いています。
「過ちを見つけてはいらだち、悪い習慣はなんどもぶり返す。
いっこうに直らないので、もうギブアップしてしまおうと思った。」
どれほど意志が強くても、環境の影響には勝てない――
これは現代の行動科学でも証明されています。
人は“整理しやすい環境”にいると自然と片づけるようになり、
“散らかりやすい環境”にいると、どんなに意志を固めてもすぐ戻ってしまう。
つまり、意志や記憶よりも「仕組み」こそが習慣を支えるのです。
たとえば、
- モノの置き場所を決める(思考の余白を減らす)
- よく使うものは「目に見える位置」に置く
- 「片づけた状態が自然に保てる動線」をつくる
こうした“行動を自動化する仕組み”があるかどうかで、結果は大きく変わります。
■ 「やめたくなる時期」こそが成長のチャンス
フランクリンは、自分の努力が続かないことに何度も失望しました。
しかし、最終的にはこう述べています。
「どうも人間というものは、いくらすばらしいことだと頭ではわかっていても、
すっかり身についてしまうまでがんばりきれずに、現状の自分を正当化してしまうものなのだろう。」
これは私たちにも痛いほど当てはまります。
ダイエット、勉強、整理整頓――どれも最初は「いいことだ」とわかっていても、
なかなか続かず、「自分はこういうタイプだから」と理由をつけて諦めてしまう。
しかし、フランクリンは“諦めること自体”を否定しませんでした。
重要なのは、**「やめても、また始められる仕組みを持っておくこと」**だと理解していたのです。
実際、彼は整理整頓を完璧にはできませんでしたが、
常に「手帳を持ち歩き、いつでもやり直せる準備」をしていました。
これはまさに“リスタート可能な仕組み”の象徴です。
■ 現代に活かす「フランクリン流・規律の工夫」
整理整頓が苦手な人ほど、以下の3つのアプローチを試すと効果的です。
① 「片づける」ではなく「整える」
片づけを「作業」だと思うと続きません。
フランクリンのように、「秩序をつくる=頭を整理する」と考えましょう。
机の上を整えることは、思考の整理でもあります。
② 「記憶」に頼らず「場所に頼る」
「どこに置いたかを覚える」より、「どこに置くかを決める」。
ラベル・トレー・定位置化など、環境が自分を導く仕組みを作ることがポイントです。
③ 「100点を目指さない」
フランクリンも最終的には、「規律を完全には守れなかった」と告白しています。
それでも、以前より整った生活ができたと満足していました。
完璧よりも、「昨日より少し整っている」状態を目指すことが、習慣化のコツです。
■ まとめ:「仕組み」が意志を超える
フランクリンが「規律」に苦しんだ経験は、
人間の限界を正直に語る貴重な記録です。
私たちはどうしても「意志が弱いから続かない」と思いがちですが、
本当の原因は仕組みがないから続かないのです。
彼の言葉は、300年経った今でも深く響きます。
「頭でわかっていても、身につくまでが難しい。」
だからこそ、私たちは“覚える”のではなく“整える”。
“努力する”のではなく“仕組みを作る”。
それがフランクリン流「規律」を生活に根づかせる唯一の道なのです。
