発明の報酬はいらない──フランクリンが語る「名誉だけで十分」という生き方
「価値ある発見をした名誉だけで十分なのだ。」
──ベンジャミン・フランクリン(1784年)
もしあなたが世界を変えるような発明を思いついたとき、
それを独占して利益を得ようとするだろうか?
フランクリンは違いました。
彼は“夏時間”という画期的な発想を、
特許も、報酬も求めずに世に広めたのです。
■「夏時間」の導入──社会のための提案
パリ滞在中、フランクリンは早朝に太陽の光で目を覚まし、こう気づきました。
「人々は、無料の太陽光を無駄にして、
高価なロウソクの光で夜を過ごしている。」
そこから生まれたのが「太陽光の節約」、すなわち夏時間の発想です。
人々が早起きして日中に活動すれば、
膨大なエネルギーと費用を節約できる。
社会全体に恩恵をもたらすこの発想を、
彼はユーモラスな論文として新聞に発表しました。
■報酬を求めない理由
フランクリンは、こう語ります。
「この発見は、地位も、年金も、専売特許も、いっさい求めない。
名誉だけで十分である。」
彼にとって、知識や発見は“所有物”ではなく、
**公共の財産(public good)**でした。
たとえば、彼が発明した避雷針や遠近両用メガネも、
特許を取らずに社会へ自由に公開しました。
理由は明快です。
「社会に役立つ知恵は、すべての人のものである。」
この精神が、アメリカ建国期の“公益重視”の倫理にも受け継がれていきます。
■名誉は「感謝されること」に宿る
フランクリンは、名誉を“勲章”や“地位”としてではなく、
**「人の役に立ったという実感」**として捉えていました。
「発明の対価とは、報酬ではなく、
それを使う人々の笑顔である。」
彼の倹約主義は、お金を貯めるためではなく、
人々の暮らしをより合理的にするためのものでした。
だからこそ、「倹約」と「利他」が彼の哲学の両輪だったのです。
■知の共有こそ、社会の進歩
現代では、特許や知的財産が経済を支えています。
しかしフランクリンの思想は、
「利益よりも共有を優先することで社会全体が発展する」
という点で、今なお革新的です。
彼がもし現代に生きていたら、
オープンソースや公共データの解放を推進していたに違いありません。
「自分の知恵を独占する人は、世界を小さくする。
知恵を分け与える人は、世界を豊かにする。」
■最初の一歩を恐れない
フランクリンは、夏時間を導入することの心理的な壁にも言及しています。
「夏時間がむずかしいのは、最初の2~3日だけだ。
慣れれば自然にできるようになる。」
つまり、良い習慣も、社会の改革も、最初の一歩が最大の障壁なのです。
しかし、そこを乗り越えれば、
人々の暮らしはより豊かで健康的になると信じていました。
■まとめ:発見の価値は「どれだけ役立つか」で決まる
フランクリンの姿勢は、発明家としてだけでなく、
一人の思想家としての成熟を示しています。
- 知は独占するものではなく、共有すべきもの
- 名誉とは、人の役に立つことそのもの
- 発見の価値は、社会の幸福に比例する
「真の報酬は、お金ではなく、感謝の声である。」
フランクリンの生き方は、
現代のイノベーションにも通じる「公共の知の倫理」を教えてくれます。
