「徳もスキルで身につく」──フランクリンが教える、人間力を磨く“技術”の話
「たいていの人には、生まれながらの徳がある。
だが、すべての徳を持つ人はいない。」
──ベンジャミン・フランクリン(1760年)
フランクリンはこの言葉で、人間の成長は“技術”によって可能だと断言しています。
つまり、「徳(Virtue)」──誠実・節制・勤勉・謙虚といった人格的な資質も、
絵を描くことや楽器を弾くことと同じく、学び、訓練し、習得するスキルなのです。
■「なりたい」と思うだけでは、なれない
フランクリンは言います。
「画家や航海士、建築家になりたいとしても、
そう決心しただけではなれない。」
人間として成長したい、誠実でありたい、寛容な人になりたい──
どんなに強く思っても、それだけでは現実は変わりません。
大切なのは、**「原理」と「やり方」と「道具」**を学ぶこと。
- 原理=どうすれば身につくかの理屈を理解する
- やり方=他者の手本を見て真似する
- 道具=実践のための仕組みや環境を整える
この3つを組み合わせることが、**徳を身につけるための“技術”**なのです。
■徳を“技術”として学ぶという発想
フランクリンは若いころから、「徳を科学的に鍛える」ための方法を考えていました。
その代表が、13の徳のリストと記録表(Virtues Chart)です。
彼は13の徳──節制、沈黙、秩序、決断、倹約、勤勉、誠実、公正、節度、清潔、落ち着き、純潔、謙虚──を週ごとに重点的に実践し、
毎晩、日記にチェックを入れて自己観察を行いました。
それは精神論ではなく、行動を可視化するための技術でした。
つまり、彼にとって「徳を磨く」とは、
倫理ではなくスキル開発のプロセスだったのです。
■手順を踏まなければ、途中で挫折する
「手順どおりにやらなければ、困難にぶち当たり、やる気を失い途中で放り出すことになる。」
これは、フランクリン流の“習慣化の科学”です。
彼は、自分の行動を段階的に設計しました。
一度にすべてを変えようとせず、ひとつずつ積み重ねていく。
まさに「小さな成功の連鎖」が継続力を生むことを理解していたのです。
現代心理学でも、これは**「行動デザイン」**として再発見されています。
- 難易度を少しずつ上げる
- 成果を記録する
- 小さな達成感を可視化する
フランクリンは、これを18世紀の段階で体系化していました。
■「徳」を“実践スキル”として再定義する
フランクリンの思想を現代に置き換えると、次のように言えます。
- 誠実さ → 信頼構築のスキル
- 謙虚さ → 学びのスキル
- 節制 → 自制力・セルフマネジメント
- 勤勉 → タイムマネジメント
つまり「徳」とは、抽象的な人格ではなく、人生をうまく運ぶための技術体系なのです。
そして、それを学ぶには才能ではなく、練習と仕組み化が必要。
「良い人になりたい」と願うだけでなく、「良い人でいる方法」を練習すること。
それが、フランクリンの“実践的哲学”でした。
■まとめ:徳を磨くのは、努力ではなく“設計”
フランクリンが教えてくれるのは、
**「足りないものを埋めるのは意志ではなく技術だ」**という真実です。
- 自分の弱点を見極める
- 原理と方法を学ぶ
- 段階的に練習する
- 続けられる仕組みを作る
このプロセスを踏めば、どんな徳でも、どんなスキルでも身につけられる。
それが、18世紀の哲人が語った“人間成長の技術論”です。
「徳は生まれつきではない。
磨き方を知る者の手の中で、技術として完成する。」
