フランクリン流「文章力トレーニング」:模倣と再現で思考と表現を磨く方法
「10代のときにやっていた文章の練習が、
その後の人生において最も役立った。」
――ベンジャミン・フランクリンは『自伝』の中で、
自分の文章力を磨いた方法をそう振り返っています。
政治家・科学者・発明家として多才を発揮した彼の原点には、
「文章を書く練習」=思考を鍛える訓練がありました。
■ 『スペクテーター』との出会いが人生を変えた
「かの有名な『スペクテーター』という本と出会った。
実際に手にとって見たのはそのときが初めてだったが、
さっそく購入して何度も何度も読み、大いに気に入ってしまった。」
『スペクテーター(The Spectator)』は、
18世紀初頭のロンドンで発行されていた道徳・教養誌。
上流階級から商人・学者まで幅広く読まれ、
当時の英国社会に大きな影響を与えていました。
フランクリンはまだ印刷職人見習いの10代でしたが、
この本に出会って「良い文章とは何か」を直感的に理解したのです。
■ フランクリン流・文章トレーニングの3ステップ
フランクリンは、単に読んで満足するのではなく、
自分の手で再現することで文章力を磨きました。
その方法は驚くほど体系的で、現代のライティング教育にも通用します。
① 読んで「構造」を理解する
「そのなかから何編か選んで、一つひとつの文が意味するものを
自分のことばでメモ書きしておいた。」
まず、文章を細かく分解して、
それぞれの文が何を伝えているのかを要約します。
ここで重要なのは、「言葉」ではなく「意味」を写し取ること。
こうすることで、文章の構造と論理展開を理解できるようになります。
② 数日後に「再現」する
「数日たってから本を閉じたまま、メモ書きをもとに
文章を可能な限り完全に近くなるまで再現してみる。」
時間をおくことで記憶が曖昧になり、
自分の言葉で再構築する力が試されます。
まさに「模倣」から「創造」へ移行する瞬間。
原文のリズム・文体・語彙の使い方を
自分なりに再発見するプロセスです。
③ 原文と「照合」して修正する
「自分が再現した文章と原本とを比較して、
間違いを発見して修正する。そんな練習を繰り返した。」
最後に、自分の再現文と原文を比較。
どこがずれていたのか、どの表現が自然でないのかを分析します。
この「照合と修正」のプロセスこそ、
フランクリンの文章力を飛躍的に高めた秘密です。
■ 「読む」だけでは文章は上手くならない
フランクリンの方法は、ただの読書ではありません。
それは**“能動的読書”=書きながら読むこと**です。
現代でも、文章がうまくなりたい人の多くは「良い文章を読む」ことに集中します。
しかし、フランクリンは明確に示しています。
「読むだけではなく、再現して比較することで思考が磨かれる。」
つまり、読解と表現はセットで成長するのです。
彼は10代のうちにこの方法を繰り返し、
自然と「構成力・語彙力・説得力」を身につけました。
■ 文章力=論理力+構成力+表現力
フランクリンのトレーニングは、現代のビジネスライティングにも応用できます。
文章力を構成する3つの要素――
- 論理力(何を、どの順序で伝えるか)
- 構成力(段落・展開の流れ)
- 表現力(語彙や比喩、リズム)
これらを鍛える最も効果的な方法が、
彼の言う「模倣と比較」です。
特に彼の方法は、単なる“書き写し”ではなく、
自分の思考で再構築する練習である点が画期的でした。
■ なぜ「模倣」は創造につながるのか
一見すると、模倣は創造性を妨げるように思えます。
しかしフランクリンは、模倣を通して“自分の声”を見つけました。
「文章がたいへんすばらしいので、
もし可能なら自分もまねしたいと思ったのだ。」
模倣は、良い型を体に覚えさせるための第一歩です。
音楽家が名曲を演奏して技術を磨くように、
作家も良文を再現して構造を理解することで成長します。
やがて、そこに自分の個性が加わり、独自のスタイルが生まれる。
それが、模倣から創造へ至る黄金ルートなのです。
■ 現代でも使える!フランクリン式ライティング練習法
現代の学習環境でも、フランクリンの方法はそのまま活用できます。
【実践ステップ】
- 尊敬する作家・コラムニスト・ブロガーの記事を選ぶ
- 各段落の要点を自分の言葉でメモする
- 1日あけて、メモだけで再現してみる
- 原文と比較し、構成や表現の違いを分析する
これを数回繰り返すだけで、
自分の文章が自然と読みやすく、論理的になっていくはずです。
■ まとめ:「書く力」は“思考を整理する力”
フランクリンが少年時代に行ったこの練習法は、
単なる作文トレーニングではありませんでした。
「この練習が、のちに世の中で出世するための
大きな手段となった。」
つまり、文章力=社会で生き抜く力だったのです。
文章を書くことは、自分の思考を整えること。
言葉を磨くことは、人生を磨くこと。
フランクリンのように、
「読む・書く・比べる」という地道なサイクルを回すことが、
どんな時代にも通用する“知的成長の道”なのです。
良い文章は、努力の鏡である。
模倣から始め、自分の言葉で世界を語ろう。
