古代ローマの哲学者エピクテトスは、弟子たちに向かってこう語りました。
「仮に他人が、君の身体を通りすがりの人にあげてしまったら、君は激怒するだろう。それなのに君は、自分の心を誰彼構わず委ねてしまい、その相手にののしられれば取り乱し、悩み苦しむ――そんなことで恥ずかしくないのかね?」
私たちは身体を守ることには敏感です。他人に勝手に触られることや、意に反して動かされることには強い抵抗を示します。けれども、心に関してはどうでしょうか。
SNSでのコメントに一喜一憂し、テレビの情報に振り回され、誰かの発言に気分を左右される。知らず知らずのうちに「自分の心」を他人に明け渡してしまっていることはないでしょうか。
気づかぬうちに心を委ねている現代人
机に向かって仕事を始めるとき、最初に開くのはインターネット。家族との食卓では、数分もしないうちにスマートフォンが取り出される。休日に公園のベンチで休んでも、自己を見つめる代わりに周囲の人を観察して品定めする――。
これらはすべて、心が外に奪われている状態です。そして誰も私たちにそれを強制してはいません。言ってしまえば「自業自得」であり、自分から自由を手放しているのです。
ストア派が教える「本当の自由」
ストア派哲学が強調するのは、身体は支配できなくても、心は自分のものだという事実です。病気や事故、自然災害、社会的な制約によって身体の自由は奪われることがあります。しかし、ものの見方や心のあり方は、他人が決めることではなく自分自身の選択にかかっています。
エピクテトスは「自分の心とものの見方、この二つを常にコントロールせよ」と説きました。これこそが私たちにとっての本当の自由であり、何ものにも奪われない宝なのです。
心を守るための3つの実践法
1. 情報の取捨選択を意識する
SNSやニュースは無限に流れてきますが、すべてに反応する必要はありません。通知をオフにする、見る時間を決めるなどして、外部からの刺激をコントロールしましょう。
2. 自分の反応を観察する
誰かの発言にイラっとしたとき、まず「なぜ自分は反応したのか?」と問いかけてみましょう。相手の言葉ではなく、自分の心が生み出した反応に気づけます。
3. 沈黙と孤独を受け入れる
静かな時間を意識的に作ることで、他人の影響から離れ、自分自身と向き合えます。短い瞑想や日記を書く習慣が有効です。
まとめ ― 自分の心を自分の手に取り戻す
現代社会は、他人の意見や情報が絶えず押し寄せる環境です。だからこそ、自分の心を無防備に委ねることは「自由を手放すこと」に等しいのです。
身体を守るのと同じくらい、心も守る必要があります。自分の心をコントロールできれば、他人に振り回されず、冷静で安定した毎日を送れるでしょう。
ストア派が説いた「心の自由」は、2000年前と同じように、現代を生きる私たちにとってもかけがえのない指針なのです。