恩を忘れず、恨みを忘れる──『菜根譚』に学ぶ、人間関係を豊かにする心の在り方
与えた恩を誇らない、受けた恩を忘れない
『菜根譚(さいこんたん)』には、次のような言葉があります。
人に与えた恩は忘れてしまうのがよい。しかし、かけた迷惑を忘れてはならない。
人から受けた恩は忘れてはならない。しかし、受けた恨みは忘れてしまうべきだ。
この一節は、人間関係を円満に保つための「心の姿勢」を見事に言い表しています。
それは、**「与えるときは見返りを求めず、受けるときは感謝を忘れない」**という生き方です。
多くの人間関係のトラブルは、「自分がどれだけしてあげたか」や「相手が何をしてくれなかったか」という思いから生まれます。
しかし、菜根譚はそれを超えた「美しい人間関係の法則」を示しているのです。
「恩を与えた」と思った時点で、心が濁る
人に何かをしてあげたとき、私たちはつい「してやった」と感じてしまいます。
しかし、それは相手のためではなく、自分の満足のための行動になってしまう。
菜根譚は「与えた恩は忘れよ」と言います。
それは、本当に人のために行動したなら、見返りを求める必要はないという意味です。
恩を誇る人ほど、感謝されなければ不満を抱きます。
逆に、恩を忘れる人は、相手がどう反応しようと心が穏やかです。
その“無償の心”こそが、人としての徳を高めるのです。
「恩を与えても記憶せず、迷惑をかけたら反省を忘れない。」
この姿勢が、人の信頼を長く保つ秘訣です。
受けた恩は、いつまでも心に刻む
一方で、菜根譚は「人から受けた恩は忘れてはならない」とも言います。
それは、感謝の記憶こそが人を豊かにするからです。
誰かがかけてくれた一言、助けてくれた行動、チャンスをくれた恩。
それを「当然」と思わず、「ありがたい」と思える人の人生は、自然と幸せに満たされていきます。
そして、感謝を忘れない人は、他人にも優しくなれる。
自分が受けた恩を、今度は誰かに返そうとする——この“恩の循環”が、人と人との絆を深めていくのです。
恨みを手放せば、心が自由になる
菜根譚はまた、「受けた恨みは忘れるべきだ」とも説いています。
これは、他人を許すことは、自分を解放することだという意味です。
恨みや怒りを抱えていると、その感情がずっと心に居座り、自分を苦しめます。
相手を許すことは、相手のためではなく、自分の心を軽くするための行為なのです。
恨みを忘れられる人は、どんな場面でも穏やかで強い。
心の中に怒りや執着がない人は、自然と顔つきも言葉も柔らかくなり、周囲の人を安心させます。
恩を忘れず、恨みを忘れるための3つの習慣
- 一日の終わりに「感謝ノート」を書く
今日誰かに助けてもらったこと、嬉しかったことを1行でも記録する。
小さな感謝の積み重ねが、幸福感を育てます。 - 過去のトラブルを“学び”に変える
恨みを抱くより、「この経験から何を得たか」に意識を向けましょう。
感情が整理され、前向きな視点が生まれます。 - 「してあげたこと」は数えない
恩を数える代わりに、受けた恩を思い出す。
それだけで人間関係のストレスが驚くほど減ります。
恩と恨みのどちらを覚えて生きるかで、人生の質は大きく変わります。
感謝を中心に生きる人ほど、幸福度も信頼も高まっていくのです。
謙虚であることが、最も強い生き方
『菜根譚』が教えるこの一節の核心は、「謙虚さと感謝」です。
恩を誇らず、受けた恩を忘れず、恨みを流す——この姿勢を持つ人は、どんな状況でも心が安定しています。
謙虚さとは、弱さではありません。
それは、人間関係の中で自分を過信せず、他人を敬う成熟した強さです。
恩を忘れず、恨みを忘れる人は、どんな環境でも幸福を見出せる。
そして、その穏やかな心が、周囲をも幸せにしていく。
これが、『菜根譚』が何百年も読み継がれてきた理由です。
まとめ──感謝を忘れず、心を軽く生きる
『菜根譚』の「与えた恩は忘れ、受けた恩は忘れない」という言葉は、
人としての美徳をシンプルに言い表しています。
恩を誇るより、感謝を大切に。
恨みを覚えるより、学びに変える。
その心のあり方こそが、幸せで穏やかな人生の秘訣です。
今日も誰かに感謝し、過去の怒りを手放してみましょう。
その瞬間から、あなたの世界は静かに優しく変わっていくはずです。
