「感情は敵ではない」――新渡戸稲造『自警録』に学ぶ、感情を正しく使う生き方
「感情」は抑えるものではなく、導くもの
新渡戸稲造は『自警録』の中でこう述べています。
感情は読んで字のごとく、私たちの感覚と人情の二つを含む。
そのような感情は正しい方向にも、間違った方向にも走りやすい。
この一文には、感情に対する新渡戸の深い洞察が込められています。
彼は、感情を“排除すべきもの”とも、“盲信すべきもの”とも見ていません。
むしろ、感情は人間を動かすエネルギーであり、
その力を「どの方向に向けるか」が重要だと説いています。
感情は「力」である
新渡戸は次のように言います。
感情というのは一種の力であり、感情があるからこそ、私たちの考えにも力が与えられる。
まさにこの言葉は、感情の本質を言い当てています。
感情は理性の敵ではなく、理性を動かす燃料です。
怒り、悲しみ、喜び、愛――
これらの感情があるからこそ、人は行動し、創造し、変わることができる。
しかし、そのエネルギーが間違った方向に向かえば、
たちまち破壊的な結果をもたらします。
だからこそ新渡戸は、「感情を抑える」ことよりも
**「感情を正しい方向に導く」**ことを説いたのです。
感情がない思考は「冷たい」
新渡戸はさらにこう述べています。
感情の力がなければ、人の考え方はとかく冷淡になりやすい。
これは、現代の社会にも通じる重要な警句です。
論理や理性だけで判断する人は、一見賢明に見えますが、
そこに「人間らしさ」が欠けると、決断は冷酷になります。
たとえば――
- 数字だけで人を評価する上司
- 結果だけで判断する社会
- 論理的だが、思いやりに欠ける言葉
新渡戸は、こうした冷淡な理性のあり方を戒めました。
理性を保ちながらも、人情(共感・思いやり)を失わないこと――
これが、彼の言う「感情を正しく使う」生き方です。
「誤った思想に感情が混じる」と危険になる
新渡戸は、感情の力が持つ両刃の性質についても鋭く指摘します。
感情は意志や思想に力を与えるものであるだけに、誤った思想に感情が混じると、その誤りは一層ひどいものになる。
これは、現代のSNS時代にも通じる警告です。
感情は、人を動かす原動力である一方で、
誤った方向に使えば、理性を失わせ、暴走を生む。
- 怒りに支配される議論
- 恐怖をあおる言説
- 偏見に基づく集団心理
こうした現象は、まさに「感情が誤った思想に力を与えた」例です。
だからこそ新渡戸は、
「感情を殺すな、しかし感情に支配されるな」と私たちに教えています。
感情を「正しい方向に向ける」ための3つの実践
新渡戸の教えを現代的に活かすには、
感情を否定せず、適切に導く習慣を身につけることが大切です。
① 感情を“見つめる”時間を持つ
怒りや不安を感じたとき、すぐ反応するのではなく、
「今、自分は何に反応しているのか?」と一度立ち止まる。
感情を客観的に観察するだけで、暴走を防げます。
② 感情を「行動の燃料」に変える
怒りを「改善への行動」に、悲しみを「優しさ」に変える。
感情を行動に変換することで、破壊ではなく創造が生まれます。
③ 「理性」と「感情」の対話を意識する
心の中で理性と感情が対話できる人は、常に落ち着いています。
「この感情は正しい方向に使えているか?」と問い直す習慣が、
感情を力に変える鍵です。
「感情」を使いこなす人が、信頼を得る
新渡戸は、感情を制御できる人こそ“成熟した人”だと考えていました。
怒りを抑える冷静さ、
悲しみを受け止める優しさ、
喜びを共有する温かさ――
これらを自然にできる人は、周囲から信頼されます。
それは感情を押し殺しているのではなく、
正しい方向に整えて使っているからです。
人を動かすのは論理よりも感情。
だからこそ、感情を整えられる人がリーダーになり、
信頼を集めるのです。
現代へのメッセージ――「感情」は育てるもの
現代は、感情があふれやすい時代です。
SNSでは怒りが拡散し、
ニュースは恐怖や不安を刺激する。
しかし、新渡戸稲造の教えはこう語りかけます。
「感情は力である。その力をどこへ向けるかが、人間の価値を決める。」
怒りを愛に、悲しみを思いやりに。
感情を正しい方向に導ける人こそ、
混乱の時代に光をもたらす存在なのです。
まとめ:「感情を導く力」が、心の成熟である
新渡戸稲造の「感情は正しい方向に向けよ」という言葉は、
感情を“敵”としてきた人に新しい視点を与えます。
- 感情は人を動かす力であり、理性の燃料である
- 抑えるよりも、正しい方向に導くことが大切
- 誤った感情は人を壊すが、整えた感情は人を救う
感情はなくすものではなく、育てるもの。
その使い方ひとつで、人生の明暗は大きく変わります。
新渡戸稲造の言葉は、今も私たちに静かに語りかけます。
「感情を恐れるな。
感情を導け。
そこにこそ、人間の真の知恵がある。」
