人は絵であり、画家でもある|アドラー心理学が語る人間理解と不完全さの受容
人はどんな存在なのか――。
心理学者アルフレッド・アドラーは、この問いに対して独特の比喩を用いました。
著書『子どもの教育』の中で彼はこう述べています。
人は絵であり、同時にその絵を描く画家でもある。
人は統一性を持つが、表現には独自性がある。
しかし、人間として絶対に正しいわけではなく、不完全で過ちを犯しやすい存在である。
「絵」としての人間
アドラーはまず、人間を「絵」にたとえました。
つまり、人には一人ひとり固有のパーソナリティがあり、その全体像は一枚の絵のように統一されています。
- 性格や価値観
- 行動のパターン
- 対人関係の築き方
これらはバラバラではなく、一つの統一性をもった姿として現れます。
「画家」としての人間
同時に人は「画家」でもあります。
自分という絵を描き続けている主体、すなわち 人生を創り上げるアーティスト でもあるのです。
- 誰と関わるかを選び
- どんな仕事をするかを選び
- どう生きるかを選ぶ
こうして人は、自分なりの独自の画風で人生という絵を描き出していきます。
しかし人間は不完全な存在
アドラーは同時に、人間の限界についても明言しています。
- どんなに優秀な画家でも「絶対に正しい絵」を描けるわけではない
- 人は弱く、誤りや失敗を繰り返す
- 完全な存在ではなく、未完成のまま生き続ける
つまり、人は「絵を描く力を持ちながら、決して完璧な作品を仕上げることはできない存在」なのです。
不完全さを受け入れることの大切さ
この視点は、自己理解や教育において重要な意味を持ちます。
- 自分の弱さや失敗を受け入れられる → 前に進む勇気が持てる
- 子どもや他人の不完全さを認められる → 過度な期待や批判をしなくなる
- 完璧を目指すのではなく、成長を重ねる姿勢を持てる
「不完全であること」を否定するのではなく、「だからこそ成長できる」と捉えることが、健全な生き方につながります。
教育における示唆
子どもを育てるうえでも、この視点は欠かせません。
- 子どもは未熟であり、失敗するもの
- 親や教師は「正しい絵を描かせる」のではなく、「自分なりの絵を描けるように支える」役割を持つ
- 子どもの過ちを責めるより、「次にどう描き直すか」を一緒に考えることが重要
教育とは、完璧な作品を作らせることではなく、子ども自身が画家として描き続ける力を支えること なのです。
自分という絵を描き続ける
私たち大人もまた、自分の人生を描き続ける画家です。
失敗して描き直すこともあるし、色を塗り替えることもあります。
- 新しい挑戦をするたびに絵は変わる
- 他者との関わりで新しい色が加わる
- 過去の誤りも、絵の一部として意味を持つ
不完全だからこそ、人生という絵はいつまでも描き続けられるのです。
まとめ
アドラー心理学は、人は「絵」であり「画家」でもあると教えます。
統一性を持ったパーソナリティを持ちながら、自らの人生を描き続ける主体でもある。
しかし同時に、人は不完全で過ちを犯す存在です。
その不完全さを受け入れ、自分も他者も「描き続ける途中の作品」として認めること。
それこそが、勇気を持って生きるための第一歩なのです。
