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膝関節脂肪体由来アディポカインと骨下板硬化:変形性膝関節症における骨代謝制御の可能性

はじめに

変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis: KOA)の進行に伴い、**骨下板硬化(sclerosis)や骨棘形成といった骨代謝異常が生じます。
近年、膝関節脂肪体(Infrapatellar Fat Pad: IFP)が分泌する
アディポカイン(adipokines)**が、この骨代謝制御に関与する可能性が注目されています。

アディポカインは、従来「脂肪組織ホルモン」として代謝疾患との関連が研究されてきましたが、骨芽細胞・破骨細胞の分化や活動を調整する作用も持ち、骨リモデリングと炎症性関節疾患の橋渡し因子となり得るのです。


IFP由来アディポカインと骨形成

アディポネクチン(Adiponectin)

  • 骨髄MSCの骨分化を促進(Wnt/β-カテニン経路を介する)
  • 骨芽細胞マーカー(オステオカルシン・ALP)の発現を誘導
  • 骨芽細胞の増殖促進、破骨細胞分化の抑制(APPL1-AMPKおよびWnt/β-カテニン経路)

これらの作用は、骨形成促進と骨吸収抑制の両面から骨リモデリングを制御する可能性を示しています。

レプチン(Leptin)

  • KOA患者由来の骨下板骨芽細胞の増殖を促進
  • 骨形成を高める一方で、軟骨細胞の肥大化や骨化現象を誘導し、OAマウスにおける骨硬化に関連
  • 臨床研究では、血清レプチン濃度が骨形成マーカー(オステオカルシン)と正の相関

つまり、レプチンは骨形成促進と病的骨硬化の両面に関与する二面的因子といえます。

ビスファチン(Visfatin)

  • ヒト骨芽細胞様細胞の増殖を促進
  • Ⅰ型コラーゲン合成を亢進
  • 骨基質形成をサポートし、KOAにおける骨リモデリングに寄与する可能性

骨下板硬化との関連

これらのアディポカインは、骨芽細胞と破骨細胞のバランスを調整することで骨代謝に影響を及ぼします。

  • アディポネクチン:骨形成促進・骨吸収抑制 → 骨保護的
  • レプチン:骨形成促進だが、同時に軟骨肥大・骨硬化を促進 → 病的進行因子
  • ビスファチン:骨基質合成促進 → 骨硬化に関与する可能性

さらに、IFPは膝関節内でアディポカインの主要な供給源であることから、KOA進行に伴う骨下板硬化との関連は強いと考えられます。


今後の課題と治療的応用

課題

  • これまでの研究では、直接的にIFP由来アディポカインがOA骨に及ぼす影響を評価したものは存在せず、間接的知見が中心。
  • 各アディポカインの作用は必ずしも一方向的ではなく、炎症環境や濃度依存的に相反する作用を示すことがある。

治療的応用

  • アディポカインの局所制御
    • 特定のアディポカイン(例:病的に作用するレプチン)を阻害することで、骨硬化進行を抑制する可能性。
  • MSCとの組み合わせ療法
    • アディポカインの作用を利用しつつ、IFP由来MSCの軟骨保護作用と組み合わせることで、関節修復を促進できる可能性。

まとめ

膝関節脂肪体(IFP)から分泌されるアディポカインは、骨芽細胞・破骨細胞のバランスを制御し、骨形成と骨硬化の両面に影響を与えます。

  • アディポネクチン:骨形成促進と破骨細胞抑制 → 骨保護的
  • レプチン:骨形成促進とともに、軟骨肥大・骨硬化促進 → 病的進行因子
  • ビスファチン:骨芽細胞増殖・Ⅰ型コラーゲン合成促進 → 骨基質形成に寄与

IFPは関節内でのアディポカインの主要供給源であり、骨下板硬化との関連は非常に高いと考えられます。
今後は、アディポカインごとの役割を詳細に解明し、特定アディポカインを標的とした局所治療がKOA治療の新戦略となる可能性があります。

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taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。