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膝関節脂肪体(IFP)の解剖と生物学的機能:疼痛・炎症・再生医療への可能性

はじめに

膝関節脂肪体(Infrapatellar Fat Pad: IFP)は、1904年にHoffaによって初めて報告された脂肪組織で、Hoffa’s fat padとも呼ばれます。膝関節内に存在しながらも滑膜外(intracapsular, extrasynovial)に位置する特殊な構造であり、疼痛源、炎症調節因子、再生医療の細胞供給源として注目されています。


IFPの解剖学的位置

  • 位置関係
    • 前方:膝蓋腱(patellar tendon)
    • 後方:滑膜(synovial lining)
    • 上方:膝蓋骨下面
    • 後上方:大腿骨滑車の軟骨および顆間切痕

このように、IFPは関節内の複数組織に接しながらクッションの役割を果たしています。


血管支配と治癒への関与

IFPは豊富な血管網を有し、周囲の組織(ACL、膝蓋腱、膝蓋骨下極)へ血流を供給します。

  • IFP切除後の影響
    • 人工膝関節置換術でIFPを切除すると、1年後に膝蓋腱が短縮
    • 原因:膝蓋腱の虚血性拘縮(ischemic contracture)と考えられる

👉 IFPは単なる脂肪組織ではなく、靭帯や腱の治癒を支える血管供給源として重要です。


神経支配と疼痛発現

IFPは脛骨神経後枝から分布する神経線維により豊富に神経支配されています。

  • SP(Substance P)陽性神経線維:疼痛・炎症を誘発
  • CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)陽性神経線維:血管拡張・疼痛感受性増加
  • KOA患者では、IFPにおけるCGRP発現が滑膜より高く、K-Lグレードと相関

👉 IFPは膝OA疼痛の主要な発生源と考えられています。


IFPの生物学的機能

  1. 機械的保護作用
    • 膝蓋骨を安定化し、膝関節運動時に衝撃を吸収膝関節可動域の端で圧力が上昇し、膝蓋骨を安定化膝蓋腱と脛骨前方の間でクッションとして作用
    👉 IFP切除は膝蓋低位(patella baja)や膝蓋大腿関節圧上昇を招き、前方インピンジメント・膝前部痛の原因となる。
  2. 炎症調節
    • 他の脂肪組織と同様に、サイトカイン・アディポカインを分泌
    • KOAの炎症進行や疼痛増強に寄与
  3. 再生医療的役割
    • IFP由来MSC(間葉系幹細胞)は高い軟骨分化能を有する
    • 他の脂肪組織や骨髄由来MSCと比較しても軟骨修復に優位性
    • 複数の研究で、IFPが再生医療に最適な細胞供給源と報告

臨床的意義

  • 疼痛評価
    • MRIなどでIFPの炎症や線維化を評価 → 膝OA疼痛源の特定に有用。
  • 治療応用
    • IFPを温存する手術戦略は、膝蓋腱や関節安定性の維持に寄与。
    • IFP-MSCを利用した軟骨再生治療や炎症制御療法の可能性。

まとめ

膝関節脂肪体(IFP)は、

  • 膝関節の安定性を守るクッション組織であり、
  • 豊富な血管・神経支配を持つ疼痛源であり、
  • 再生医療に応用可能なMSCの供給源でもあります。

そのためIFPは、膝OAの病態解明から再生医療まで幅広い臨床的意義を持つ組織として位置づけられます。

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taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。