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はじめに
変形性膝関節症(KOA)の病態は単なる機械的摩耗ではなく、局所炎症と免疫応答の異常によって進行します。その中心的な役割を担うのが**膝関節脂肪体(Infrapatellar Fat Pad: IFP)**です。
IFPは、自然免疫系と獲得免疫系の両者に関連する免疫細胞が豊富に存在し、それらの相互作用を通じて炎症や線維化を増幅させます。
自然免疫:マクロファージの役割
M1マクロファージ(炎症促進型)
- 産生するサイトカイン:IL-1β、TNF-α、IL-6、IL-12
- 主に炎症反応と組織破壊を促進
M2マクロファージ(抗炎症・修復型)
- マーカー:CD206、スカベンジャー受容体
- 産生するサイトカイン:IL-10(抗炎症)、ただしIL-12やIL-23は産生しない
- 修復過程に関与する一方で、**線維化促進作用(profibrotic)**も持つ
IFPにおける特徴
- IFPではM1/M2の明確な境界はなく、混合型の表現型を示す
- OA患者のIFPではCD206+マクロファージがSATよりも多い
- CD206+細胞は分解抑制効果を持つ一方、肥満OA患者では線維化と有意に関連
👉 IFPマクロファージは「炎症抑制と線維化促進」という二面性を持ち、病態を複雑化させています。
獲得免疫:T細胞とB細胞の関与
IFP内のT細胞プロファイル
- CD4+ T細胞>CD8+ T細胞だが、CD8+ T細胞の方が活性化レベルが高い
- 高K-LグレードOA患者ではCD8+ T細胞の増加が確認されている
CD8+ T細胞の役割
- 動物実験では、血管新生・マトリックス代謝回転を調節
- TIMP-1を介して関節リモデリング促進に関与
CD4+ T細胞のサブセット
- Th1細胞:IFN-γ産生 → M1マクロファージ誘導 → 炎症増幅
- Th2細胞:IL-4産生 → M2マクロファージ誘導 → 抗炎症作用
- 制御性T細胞(Treg):炎症抑制的に作用し、マクロファージ活性を抑制
👉 肥満によりTh1/Th2バランスが崩壊すると、マクロファージリクルートと炎症カスケードが亢進し、KOA進行に直結。
IFPにおける免疫クロストーク
- マクロファージ ↔ T細胞:サイトカインを介して相互調節
- M2マクロファージ ↔ 脂肪細胞:アディポカイン産生に影響
- CD8+ T細胞 ↔ マトリックス環境:血管新生や組織リモデリングを促進
このように、IFPは炎症のハブとして、自然免疫と獲得免疫が連携しながら病態を進行させる場となっています。
臨床的意義
- 診断
- 免疫細胞比率(M1/M2、CD4+/CD8+)は、KOAの炎症程度や進行度の指標となり得る。
- 治療
- PPARγ活性化薬はM2関連遺伝子を誘導し、抗炎症作用を発揮する可能性。
- **免疫調節療法(MSC、サイトカイン阻害薬)**により、免疫バランスを正常化できる可能性。
まとめ
膝関節脂肪体(IFP)は、
- M1マクロファージによる炎症促進
- M2マクロファージによる抗炎症と線維化促進
- CD4+ / CD8+ T細胞の不均衡による免疫異常
を通じて、KOA病態の進行に深く関与します。
今後は、免疫細胞クロストークを標的とした治療が、KOAの新たな介入戦略となる可能性があります。