日本はついにデフレ脱却したのか
いま最も注目すべき指標とは
現在の日本経済を見極めるうえで、最も重視すべきなのは実質GDP成長率ではなく、GDPデフレータである。実質成長率は依然として弱く、四半期によってはマイナス成長となる。一方で名目GDPは着実に増え、政府債務対GDP比率も自然と低下している。財政論争という文脈では確かに重要な動きだが、本質は別にある。
GDPデフレータが継続的にプラス化しているという事実こそ、長く続いた需要不足、いわゆるデフレから日本が抜け出した可能性を示す決定的なシグナルといえる。ただし、その背景にあるのは需要主導ではなく、供給能力の損失により生じたサプライロス型インフレである。
なぜ実質GDPがマイナスでも問題ではないのか
最近のデータでは、名目GDPがわずかに伸びる一方、物価上昇分を差し引いた実質GDPはマイナスに落ち込む局面が見られる。だがこれは、デフレギャップからインフレギャップへ移行する際に必ず通る過渡期の段階といえる。
名目がプラスで実質がマイナスという状態は、物価の上昇が経済の姿を映しているサインだ。対前年比で3%近いGDPデフレータのプラスが続く現状は、バブル期を上回る水準であり、需要が供給能力を上回り始めたことを示す。日本はすでにインフレギャップに入り、デフレを脱したと判断してよい。
実質賃金が上がらない理由
デフレ脱却にもかかわらず、実質賃金が伸び悩む理由について困惑する人は多い。だが、総需要と実質賃金は別の概念である。賃金が実質的に上昇するには、生産性の向上が不可欠だ。
短期的には消費税減税や輸入物価の下落、労働分配率の上昇が実質賃金を押し上げる。しかし長期的に賃金を高めるには、企業が技術投資や設備投資を積み重ね、生産性を底上げするしかない。
デフレギャップ下の企業が積極的に投資を行わないのは当然である。「供給能力100に対し需要は90」という状況で、誰が拡大投資を決断するだろうか。だが今は違う。供給能力を上回る需要が存在するため、投資が正当化される環境に変わった。
三つの選択肢が示す日本の未来
日本はサプライロス型ではあれインフレギャップに転じ、これまで存在しなかった選択肢を手に入れた。
ひとつは、生産性向上の投資によってギャップを埋め、経済成長の道を取り戻すこと。これは日本が豊かさを再構築する唯一の王道といえる。
もうひとつは、移民で人手不足を補おうとする方向性である。しかしこの選択を中心に据えた場合、生産性向上が伴わない限り、一人あたりの豊かさは低下し、国全体が貧困化するリスクが高い。
そして三つめは、インフレギャップを放置する道だ。需要が満たされず、物価だけがじりじり上昇する国となれば、発展途上国型の停滞を招く。
今の日本には、これら三つの岐路が目の前に並んでいる。サプライロス型という歪な形で訪れた転換点だが、新しい選択肢が生まれたことは確かである。
何を選ぶのか
長いデフレの時代には存在しなかった道が、ようやく開いた。ここから先は、どの未来を選ぶかという問題になる。インフレギャップを投資で埋めるのか、人手不足を他国の労働力で補うのか、あるいは何もせず物価上昇に苦しむのか。
求められているのは、国の方向性を決めるための冷静な判断であり、未来を整えるための意思である。
