受傷機転を捉える意義
骨折後に生じる関節拘縮の病態を的確に把握するためには、「どのような状況で、どのような力が作用して骨折に至ったか」を理解することが不可欠です。
例えば、
- 直達外力(直接の衝撃による骨折):交通事故や転倒時の直撃など。
- 介達外力(捻れや圧縮など間接的な力による骨折):足関節の捻挫に伴う骨折など。
直達外力では、外力が加わった部位そのものの損傷が主体になります。一方で介達外力では、伸張される組織と圧迫される組織が混在して損傷するため、軟部組織損傷の範囲は広がります。
したがって、受傷機転を把握することは「骨折部位の確認」だけでなく、「どの軟部組織に損傷が及んでいるか」を予測するために非常に重要です。
Lauge-Hansen分類とは
足関節骨折において、受傷機転を体系的に解釈するために広く用いられているのが Lauge-Hansen分類 です。この分類は、
- 足部の肢位(回内・回外)
- 作用した外力方向(外転・内転・外旋)
を組み合わせて骨折型を整理したものです。
主な分類
- PA型(Pronation-Abduction型)
- 足部が回内位で外転力が加わる。
- 三角靭帯損傷や内果骨折から始まり、進行すると外果や腓骨の骨折に至る。
- PER型(Pronation-External Rotation型)
- 足部が回内位で外旋力が加わる。
- 三角靭帯損傷または内果骨折に始まり、腓骨の螺旋骨折や骨間膜損傷に進展。
- SA型(Supination-Adduction型)
- 足部が回外位で内転力が加わる。
- 外果裂離骨折や外側靭帯損傷から始まり、内果骨折へ進行。
- SER型(Supination-External Rotation型)
- 足部が回外位で外旋力が加わる。
- 外果裂離骨折や前下脛腓靭帯損傷から始まり、腓骨螺旋骨折、後果骨折、最終的には三角靭帯損傷に至る。
この分類は「骨折の順序」と「伴う軟部組織損傷」を予測できるため、整形外科的治療だけでなく、リハビリテーションのプランニングにおいても非常に有用です。
臨床で考慮すべき軟部組織損傷
Lauge-Hansen分類は主に骨折と靭帯損傷を対象としていますが、実際の臨床ではさらに広い視点が求められます。
考慮すべき軟部組織
- 皮膚・皮下組織:外傷後の瘢痕化や浮腫滞留。
- 筋・腱:捻挫や骨折に伴う伸張損傷、腱の滑走障害。
- 関節包:血腫や水腫による癒着形成。
- 神経・血管:高エネルギー外傷では損傷の可能性が高い。
例えば、
- 底屈強制+内反外力 → 外側靭帯損傷や腓骨骨折に加え、内側関節包や軟部組織に圧縮損傷が及ぶ可能性。
- 外反外力+背屈強制 → 内果骨折や三角靭帯損傷に加え、外側の軟部組織が圧潰されるリスク。
このように、外力の方向と肢位から「伸張される組織」と「圧縮される組織」を推定し、臨床での評価に役立てることができます。
まとめ
受傷機転を正しく捉えることは、骨折後の関節拘縮の病態理解に不可欠です。
- 直達外力か介達外力かで損傷範囲が異なる。
- Lauge-Hansen分類を用いることで骨折型と軟部組織損傷を予測できる。
- 実際の臨床では皮膚・筋・腱・関節包・神経血管など幅広い組織への影響を考慮する必要がある。
理学療法士や作業療法士は、受傷機転を「骨折の原因」としてだけでなく「軟部組織障害の手がかり」として捉え、評価と治療に活かすことが求められます。