『日本経済、変貌の正体。インフレギャップと次なる勝負』
変貌した日本の経済風景
11月の消費者物価指数の発表を受けて、抱いた感想を一言で表すなら「違和感」だろうか。いや、確信に近い。2022年、そして23年を経て、日本という国は経済的に「別の国」へと変貌を遂げてしまったという印象が拭えないのである。
統計を紐解けば、持ち家の帰属家賃を除く総合指数は、今や3%から4%というレンジで、皮肉にも「安定的」に上昇を続けている。あえて帰属家賃を除いた数字を見るのには理由がある。それが、我々の生活実感である実質賃金を計算する上での、より正確な物差しとなるからだ。
この「安定的」な物価上昇が何を意味するか。答えは単純な計算の中にある。我々の名目賃金が、物価上昇を上回る4%から5%のペースで安定的に上昇しなければ、実質賃金は決して上向かないという厳しい現実である。一部の大企業や労働組合に守られた16%の人々は、春闘で5%の賃上げを勝ち取ることができるかもしれない。だが、組織に属さない残り84%の労働者にとって、継続的な5%の賃上げなど、遥か遠い高嶺の花と言わざるを得ないのが実情だろう。
輸入インフレの終焉と新たな要因
かつて、物価上昇の犯人は明確だった。2022年初頭、世界を震撼させたロシア・ウクライナ戦争の勃発と共に、穀物やエネルギーといった輸入価格が跳ね上がったからだ。しかし、データを冷静に見つめ直してほしい。輸入物価の高騰自体は、実は2023年の初めには既に収束し、以降は横ばいで推移しているのである。
それにも関わらず、国内の消費者物価指数は高止まりどころか、むしろ上昇の熱を帯びている。政府の支援策によって電気やガスの数字は一時的に抑え込まれたとしても、我々の主食であるコメを中心とした穀物価格は、上がり続けているのだ。これが示唆する事実は重い。現在の物価高は、もはや円安や輸入コストの転嫁が主因ではないということだ。
では、何が起きているのか。それは日本国内の構造的な問題、すなわち総需要に対して供給能力が圧倒的に足りていない「インフレギャップ」の状態に陥っているのである。
危機を成長に変える分岐点
世間では連日のように「人手不足」が嘆かれている。だが、経済学的な視点に立てば、人手不足こそがインフレギャップの証明であり、供給能力の限界を示している何よりの証拠なのだ。長きにわたる政府のデフレ放置政策によって、日本の供給能力はこれほどまでに毀損してしまった。その事実に、ある種のやるせなさを禁じ得ないし、もはや涙も枯れる思いである。
しかし、ここには絶望だけがあるわけではない。供給が不足しているということは、そこを埋めるための投資が必要だということだ。この人手不足、供給不足を「生産性向上への投資」で解決しようと国全体が動くとき、日本は真の意味での経済成長を果たすことができる。今こそが、その千載一遇のチャンスなのだ。
最も恐れるべきシナリオは、現状を単なる「円安による輸入インフレ」だと誤診し、世論に押された日銀が利上げという劇薬を投入してしまうことである。それは、せっかく芽生えた成長の機会を自らの手で摘み取る行為に他ならない。誤った解釈に流されず、成長のために投資をする経済を取り戻せるか。来るべき年は、日本の未来を決定づける、まさに勝負の一年となるだろう。
