政治・経済

『世界一の金持ち国家・日本。なぜ国民は貧しいのか?』

taka

貿易が生む資産の積み木

「対外純資産」という言葉を聞いて、ピンとくるだろうか。まずはその仕組みを、以前解説した経常収支と金融収支の関係から紐解いてみよう。 例えば、日本企業がアメリカに一〇〇万円相当の製品を輸出したとする。代金として一万ドルを受け取る。企業はその一万ドルで、すぐさまアメリカ企業の株式を購入したとする。 この一連の取引で何が起きたか。日本は経常収支の黒字が一万ドル増え、同時に金融収支における証券投資も一万ドルのプラスとなった。つまり、日本が持つ対米純資産が一万ドル増えたことになる。

これを国全体、そして長い期間で積み上げていくとどうなるか。対外純資産とは、その国が過去に積み上げてきた経常収支黒字の結晶であり、いわば「国の貯金箱」の残高のようなものである。 逆に言えば、経常収支赤字が続けば、対外純資産は減り、対外純負債(借金)が増えていくことになる。至極単純な理屈である。

「借金大国」という巨大な嘘

二〇二一年のデータを見てみよう。日本の対外純資産は三・六兆ドルに達し、三一カ年連続で世界最大の純債権国となっている。 世間では「日本は世界最悪の借金国家だ」「財政破綻する」といった扇情的な言説が飛び交っている。しかし、あれは政府の負債(国内での貸し借り)だけを切り取った話に過ぎない。国全体として見れば、日本は世界中の誰よりも外国に資産を持っている「世界一のお金持ち国家」なのである。家計に例えるなら、住宅ローンはあるが、それ以上に預金や株式を大量に持っている資産家のようなものだ。これを「破産寸前」と呼ぶのは、数字を読めないと言っているに等しい。

アメリカが抱える「世界最大の借金」の正体

では、「対外純資産が多い国=経済力が強い国」なのだろうか。ここが経済の面白いところである。実は、世界で最も対外純負債(借金)が多い国は、あのアメリカ合衆国である。 しかし、アメリカの経済力が世界最低だと主張する人はいないだろう。むしろ、世界最強の経済大国である。アメリカは、その巨大な魅力ある市場によって世界中から投資(借金)を集め、それを原資に国内の生産能力を高め、成長し続けている。 経済力とは、どれだけ資産を持っているかではなく、どれだけ財やサービスを生み出せるか、すなわちGDP(国内総生産)の大きさで決まる。借金まみれでも成長するアメリカと、金持ちでも成長しない日本。この対比は重要である。

金持ち国家の貧しい国民

日本経済は今、ある循環に入っている。巨額の対外純資産があるため、そこから生じる利子や配当(所得収支)が莫大な黒字となり、それが経常収支を黒字化させ、さらに資産が増えていく。 数字の上では盤石な「金持ち国家」だ。しかし、ここで立ち止まって考えてほしい。 いくら国が海外に資産を持っていても、国内で働く国民の所得、つまりGDPが増えなければ何の意味があるのだろうか。「日本は世界一の債権国です」と言われても、明日の生活が苦しいままでは、国民にとっては何の慰めにもならない。

「日本は借金大国だ」という嘘を払拭することは重要である。だが、それ以上に重要なのは、「世界一の金持ち国家でありながら、なぜ国民が貧困化しているのか」という矛盾に向き合うことだ。 海外に金を積み上げるのではなく、その富を国内に還流させ、国民の所得を底上げする政策へと転換すること。それこそが、今の日本に求められている真の「国富論」といえるのではないだろうか。

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ABOUT ME
TAKA
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理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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