政治・経済

『ジョン・ロックの狂気と歪んだお金の神話』

taka

悪貨が良貨を駆逐する

グレシャムの法則。
それは、「額面と実質価値が異なる貨幣が並存すると、実質価値の高い貨幣が消える」という原理である。
一万円金貨を「千円分の金」で作れば、その金貨だけが市場を支配し、「一万円分の金」で作られた本物は溶かされ、退蔵される。
こうして、お金は本来の「記録」という役割を失い、「金属の価値」こそが本質だと誤解されていった。

金に縛られたお金の時代

紙幣の誕生後も、世界は「お金には金の裏付けが必要だ」という神話に囚われ続けた。
1944年、ブレトンウッズ会議で金1オンス=35ドルと定められ、ドルは金と結びつけられた。
しかし、1971年のニクソン・ショックでアメリカが金とドルの交換を停止。
ようやく人類は、金属から解き放たれた管理通貨制度へと移行する。
それでもなお、「お金=金銀の量」という考えは根強く残り、現代の経済意識にも影を落としている。

貴金属が国の力を決めるという幻想

16世紀、スペインやポルトガルがアメリカ大陸の金銀を独占したとき、人々は「国家の富=金銀の量」と信じた。
この発想が「重商主義」、さらには「重金主義」へとつながる。
富とは本来、経済の生産力や信用であるはずが、単なる貴金属の量へとすり替えられていったのだ。

ロックの狂気――銀の重さが国を滅ぼす

17世紀の哲学者ジョン・ロック。政治思想では自由主義の旗手と称えられたが、貨幣観においては異常なまでの金属信仰に取り憑かれていた。
ロックにとって、お金の価値とは「銀の重さ」に等しいものであり、国家の強さも銀の量で決まるという。
彼は摩耗した銀貨をすべて改鋳し、額面と金属量を一致させるよう議会に提言した。
結果、銀貨は激減し、イギリス経済は深刻なデフレーションに陥った。
物価は下がり、取引は止まり、人々は職を失った。貨幣の量を「銀の量」で縛った代償はあまりに大きかった。

お金の正体は「信用」である

ロックの失敗は、「お金の価値は金属ではなく、信用で決まる」という真理を見誤った点にある。
お金とは、経済活動を円滑にする「債務と債権の記録」にすぎない。
国家の豊かさを支えるのは、貯蔵された貴金属ではなく、生産力と信用の総和である。
しかし、「目に見える価値」を信じた人々は、抽象的な信用よりも「重さ」を信じた。
その思い込みこそが、人類の経済史を歪めてきた最大の原因といえるだろう。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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