「順当」と「逆さま」の妙——幸田露伴が語る“型破りの価値”とは?
「順当」とは何か
幸田露伴は『努力論』の中で、「順当に行くことのよさ」と「逆さまのよさ」について語っています。
まず、露伴が言う「順当」とは、自然の秩序や理にかなったやり方のこと。
たとえば、帽子は頭にかぶり、靴は足にはく。
このように、世の中には“当たり前の順序”があり、それに従うことは正しいとされています。
私たちの生活や仕事も同じです。
計画を立て、手順に従い、順を追って努力を重ねる。これは安定した成果を生むための「正攻法」です。
露伴も、こうした“順当の価値”を決して否定してはいません。むしろ「基本を大切にせよ」と教えているのです。
「逆さまの妙味」とは何か
しかし、露伴は続けてこう述べます。
「世の中には順当の裏返しである『転倒の妙』、すなわち『逆さまの妙味』というものがある。」
ここでいう「逆さまの妙味」とは、常識や順序をあえてひっくり返すことで生まれる新しい価値のことです。
一見、理に反しているように見えることが、思わぬ成果や発見につながることがある——露伴はその可能性を指摘しています。
たとえば、芸術や発明の世界では、「逆さまの発想」が革新を生み出してきました。
絵画の視点を変えた印象派、上下を反転させた構図、音楽の転調やリズムの崩し方——それらはすべて、「順当」を裏切ることから生まれた新しい美の形です。
「順当」と「逆さま」は対立しない
露伴が伝えたいのは、「順当」と「逆さま」は対立する概念ではなく、互いを引き立て合う関係だということです。
順当ばかりを重んじれば、世界は硬直します。
逆さまばかりを追えば、混乱に陥ります。
大切なのは、状況に応じて“どちらを選ぶか”を見極める知恵です。
ビジネスで言えば、マニュアルどおりに動くことが「順当」。
しかし、顧客の思いをくみ取り、あえてマニュアルを外す判断をすることが「逆さまの妙」です。
その柔軟さが、信頼や新しい価値を生むこともあります。
現代社会における「逆さまの力」
現代は、AIや効率化が進み、「順当な正解」があふれています。
誰もが同じように最短ルートを歩もうとする時代だからこそ、「逆さまの発想」が光るのです。
たとえば、
- 仕事で“結果”ではなく“過程”を重視してみる
- SNSで“発信”よりも“傾聴”を選ぶ
- 成功者の真似をするより、自分の弱点を深掘りしてみる
これらは一見、逆さまの行動に見えますが、実は“本質的な成長”につながることが多いのです。
露伴の言葉にあるように、「逆さま」は決して逆らうことではなく、新しい角度から真理を見る試みなのです。
「型」を知ってこそ、「型破り」になれる
露伴の思想で重要なのは、「順当を理解したうえで逆さまを行う」というバランスです。
順当を知らないまま逆さまをやっても、それは単なる“無秩序”にすぎません。
書道でも、まずは基本の筆遣いを学び、字形を身につけたうえで、初めて「崩し書き」が美しくなる。
スポーツでも、基本フォームができているからこそ、臨機応変なプレーが可能になります。
つまり、「順当」は土台、「逆さま」は創造。
どちらか一方ではなく、両方を行き来することが、本当の成長と深みを生むのです。
まとめ:順当を学び、逆さまを恐れない
幸田露伴の「順当に行くことのよさ、逆さまのよさ」は、
単なる生活の知恵ではなく、“生き方の哲学”として響きます。
順当——基礎・秩序・安定。
逆さま——挑戦・創造・変化。
この二つを自在に使いこなせる人こそ、どんな時代でも柔軟に生き抜ける。
露伴が明治の世に伝えたこの教えは、現代にもそのまま通用します。
次に何かを始めるとき、もし「それは少し変じゃない?」と言われたら、
心の中でこうつぶやいてみましょう。
「順当に行くよさもある。だが、逆さまの妙もまた良し。」
