はじめに
膝関節痛は臨床で最も多い訴えの一つですが、その背景にはどの関節面に荷重が集中しているかが深く関与しています。膝関節の主要な荷重部位は、
- 大腿脛骨関節(FT:femoro-tibial joint)
- 膝蓋大腿関節(PF:patello-femoral joint)
の2つです。それぞれにかかる荷重の特徴を理解することで、疼痛の発症部位を的確に鑑別し、臨床での評価や治療に直結させることができます。
大腿脛骨関節(FT)にかかる荷重
大腿骨と脛骨の関節面で構成されるFT関節は、荷重伝達の中心を担っています。
- 階段下降:体重の数倍の荷重がかかる
- 下り坂:膝伸展機構に強い負荷が加わる
- 等速伸展運動:膝関節伸展時に高い圧縮力が発生
- しゃがみ込み:膝屈曲角度の増加に伴い、接触面積が変化しつつも荷重量は大きく上昇
特筆すべきは、平地歩行でも高い荷重量がかかっている点です。したがって、日常生活レベルの動作においてもFT関節は強いストレスに晒されており、膝関節痛の温床になりやすい部位といえます。
膝蓋大腿関節(PF)にかかる荷重
PF関節は膝蓋骨と大腿骨滑車の関節であり、膝伸展機構の効率を高める役割を持ちます。その反面、荷重量は動作によって急激に増加します。
- 階段下降・下り坂:体重の数倍に達する
- ジョギング:繰り返しの衝撃が加わる
- しゃがみ込み:特に極めて高い荷重量を示す
しゃがみ込み動作においては、PF関節にかかる圧縮力が非常に大きく、膝前面に痛みを訴える患者ではPF性疼痛を疑う根拠となります。
疼痛発症部位の鑑別ポイント
FT性疼痛が疑われる場合
- 階段下降や下り坂で疼痛を訴える
- 平地歩行では疼痛が軽度または認められない
- 膝関節内側や全体的な鈍痛を呈することが多い
PF性疼痛が疑われる場合
- 平地歩行でも疼痛が出現する
- 膝前面や前外方に痛みを訴える
- しゃがみ込みや階段昇降で症状が悪化する
FT+PF性疼痛が疑われる場合
- 平地歩行でも痛みがある
- 内側痛と前面痛を併発
- 動作によって疼痛の部位や程度が変動する
このように、疼痛の出現する動作と部位を整理することで、FTとPFの鑑別が可能になります。
臨床での評価と応用
セラピストが膝関節痛を評価する際は、以下の流れを意識すると有効です。
- 動作分析:平地歩行、階段昇降、しゃがみ込みを中心に観察
- 疼痛誘発部位の確認:内側・外側・前面・後面のいずれか
- 荷重量の理解:動作ごとにFT・PFどちらが優位に負荷されるかを推察
- 介入方針の決定:FT性疼痛であれば荷重コントロール、PF性疼痛であれば膝蓋骨のアライメントや大腿四頭筋機能への介入を優先
まとめ
膝関節痛の多くは「荷重位」に起因して生じます。その鑑別には、FT性疼痛かPF性疼痛かを判断する視点が重要です。
- FT性疼痛:階段下降や下り坂で強く、平地歩行では軽度
- PF性疼痛:平地歩行でも出現し、しゃがみ込みで増悪
- 鑑別のカギ:疼痛部位が膝関節内(FT)か前外方(PF)か
これらを踏まえて評価することで、疼痛発症部位を明確化し、より適切な治療戦略へとつなげることができます。
ABOUT ME

理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。