膝の痛みと「膝蓋下脂肪体(IFP)」
変形性膝関節症(KOA)は、中高年に多くみられる膝関節の代表的な疾患です。一般的には「軟骨のすり減り」が注目されがちですが、近年、膝蓋下脂肪体(infrapatellar fat pad: IFP)という組織にも関心が集まっています。
IFPは膝蓋骨(お皿)の下にある脂肪組織で、関節の動きをスムーズにし、衝撃を和らげる役割を担っています。しかしKOAでは、このIFPが硬くなったり、炎症を起こしたりすることが報告されており、「膝の痛みの隠れた原因」として研究が進められています。
今回の研究の目的
今回ご紹介する研究の目的は、KOA患者におけるIFPの局所微小循環(血流の細かな働き)を明らかにすることです。
具体的には、大腿四頭筋のアイソメトリック収縮(isometric quadriceps exercise: IQE)という簡単な運動中に、
- IFPの硬さ(超音波で測定)
- ヘモグロビン濃度の変化(近赤外線分光法で測定)
を比較し、KOA患者と健常者との違いを調べました。
研究デザイン
対象は以下の3グループです。
- KOA群:両膝に変形性膝関節症がある患者(30膝)
- 高齢コントロール群:健康な高齢者(20膝)
- 若年群:若い健常者(20膝)
測定は「安静時 → IQE中 → 運動後」の流れで行われました。
主な結果
1. IFPの硬さの変化
- KOA群では、IQE中のIFP硬さの変化が ほとんど認められなかった。
- 健康な高齢者や若年群では、運動による明確な変化が確認された。
2. ヘモグロビン濃度の変化
- KOA群では、運動後も 酸素化ヘモグロビン(O2Hb)の増加が認められなかった。
- 健康な群では、運動による有意な変化が見られた。
結論
KOA患者では、IFPの硬さや血流(ヘモグロビン濃度)が運動によって十分に変化しないことが明らかになりました。
これは、膝関節におけるIFPの局所微小循環が障害されていることを示しており、膝の痛みや炎症の持続に関わっている可能性があります。
臨床への示唆
- リハビリテーション
KOA患者では、単なる筋力強化だけでなく、IFPの柔軟性や血流を改善するようなアプローチが必要かもしれません。 - 診断と評価
超音波や近赤外線分光法を使うことで、IFPの状態を客観的に評価できる可能性があります。 - 新しい治療のターゲット
今後、IFPの微小循環改善を目的とした物理療法や運動療法の開発が期待されます。
まとめ
- 膝蓋下脂肪体(IFP)は、膝の健康に重要な役割を持つ。
- KOA患者では、IFPの硬さや血流の変化が乏しく、微小循環の障害が示唆される。
- 今後は「軟骨だけでなく、IFPも含めて膝を総合的に考える」視点が必要になる。
👉 膝痛に悩む方は、「筋肉や軟骨だけでなく、脂肪体も関係している」ことを知っておくと、リハビリや治療の理解が深まるかもしれません。