膝関節周辺の痛覚神経の存在部位と疼痛の種類:臨床での評価ポイント
はじめに
膝関節痛は臨床で非常に多く遭遇する症状ですが、その原因は一様ではありません。膝関節周辺にはさまざまな組織が存在し、それぞれが痛覚神経を有しています。どの組織が疼痛の発生源となっているかを見極めることは、治療戦略を立てるうえで欠かせません。
本記事では、膝関節周辺における痛覚神経の存在部位と、そこから生じる疼痛の種類について解説します。
膝関節周辺の痛覚神経の存在部位
膝関節の軟部組織で疼痛を感知するポイントは、主に以下の5つです。
- 骨膜
- 筋膜
- 滑膜関節包
- 線維性関節包
- 靭帯
これらの部位は、外傷や炎症、過負荷などの影響を受けやすく、それぞれ特有の疼痛様式を示します。
骨膜性疼痛
骨膜(periosteum) は痛覚神経が豊富に分布しているため、骨の損傷や骨折によって容易に疼痛が生じます。臨床では「骨性疼痛」として捉えられる場合も多いですが、実際には骨そのものではなく骨膜由来の疼痛がほとんどです。
- 代表例:骨折、打撲による骨膜損傷
- 臨床的特徴:局所圧痛が強い、荷重時に鋭い痛みが出現
筋膜性疼痛
筋膜(fascia) もまた痛覚神経が分布する部位です。筋肉の過負荷や損傷に伴って炎症や張力異常が起こると、筋膜性疼痛として現れます。
- 代表例:スポーツでのオーバーユース、筋損傷に伴う痛み
- 臨床的特徴:動作時に増悪、圧迫やストレッチで誘発されやすい
筋膜性疼痛は慢性化すると「筋膜性疼痛症候群」として広がるケースもあり、注意が必要です。
滑膜性疼痛
滑膜関節包(synovial membrane) は炎症が波及すると疼痛の原因となります。膝関節では変形性膝関節症(膝OA)においてしばしば観察されます。
- 代表例:変形性膝関節症、関節炎
- 臨床的特徴:膝の腫脹・熱感を伴い、屈伸運動で痛みが誘発される
滑膜性疼痛は炎症反応と密接に関係するため、評価時には腫脹や発赤の有無も確認することが重要です。
線維性関節包由来の疼痛
線維性関節包(fibrous capsule) は、関節の安定性を担う構造物です。拘縮や炎症によって硬化すると、疼痛の発生源となります。
- 代表例:関節包拘縮、術後の関節硬直
- 臨床的特徴:可動域制限と疼痛が並行して出現
このタイプの疼痛は「トランスレーション理論」で説明されるように、関節の滑走障害や異常運動と関連しやすい点が特徴です。
靭帯性疼痛
靭帯(ligament) も痛覚神経が豊富に分布する部位です。過度の牽引や損傷、炎症が加わると疼痛が発生します。
- 代表例:膝蓋靭帯炎、鵞足炎(付着部炎)
- 臨床的特徴:スポーツ障害や膝OAでよくみられる。特に局所圧痛や動作時の痛みが特徴的
靭帯性疼痛は付着部炎として出現することが多く、運動習慣のある患者や中高年層に頻繁に認められます。
臨床での疼痛鑑別のポイント
膝関節痛を訴える患者に対しては、次の観点で評価すると疼痛源を絞り込みやすくなります。
- 発症契機:外傷か、慢性のオーバーユースか
- 疼痛部位:局所圧痛か、広範囲の痛みか
- 随伴症状:腫脹・熱感の有無、可動域制限の有無
- 動作依存性:歩行・階段昇降・しゃがみ込みでの変化
このような視点で整理すると、疼痛が骨膜性なのか、筋膜性なのか、あるいは滑膜・靭帯性なのかを臨床で鑑別しやすくなります。
まとめ
膝関節周辺には、骨膜・筋膜・滑膜関節包・線維性関節包・靭帯といった複数の痛覚神経分布部位が存在します。
- 骨膜性疼痛:骨折や損傷で出現
- 筋膜性疼痛:筋の過負荷や損傷により発症
- 滑膜性疼痛:炎症が波及、膝OAに多い
- 関節包由来の疼痛:拘縮や硬化に伴う痛み
- 靭帯性疼痛:付着部炎としてスポーツ障害やOAに多発
疼痛の発生源を見極めることは、治療方針を決定する第一歩です。セラピストは各組織の特徴を理解し、臨床評価に役立てることが求められます。
