『信じ切る力』|栗山英樹が語る「人を信じる勇気」がチームを変える理由
『信じ切る力』──栗山英樹が教える「人を信じて勝つ」ための思考法
2023年のWBC決勝。大谷翔平が最後の打者を三振に切って取り、日本は世界一に輝いた。
その瞬間のチームの裏には、「信じ切る」ことで奇跡を呼び込むリーダーの存在があった。
北海道日本ハムファイターズ、そして侍ジャパンを率いて頂点に立った名将・栗山英樹。
その原点と哲学を凝縮したのが本書『信じ切る力 ― 生き方で運をコントロールする50の心がけ』(講談社)だ。
1. 「信じている」と言葉にする力
栗山は監督1年目から、選手たちに何度もこう伝えてきた。
「信じている。」
それは単なる励ましではなく、**言葉で伝えることそのものが“信じる行為”**だという。
心の中で思うだけでは伝わらない。口に出して初めて、相手の覚悟を動かす。
信頼は目に見えないが、「信じている」という言葉は選手の心に具体的に響く。
それが、チームをひとつにまとめる最初の一歩になるのだ。
2. 村上宗隆に託した“9回裏の決断”
2023年WBC準決勝・メキシコ戦。
9回裏、1点ビハインド、ノーアウト一・二塁の場面で、打席には不振の村上宗隆。
周囲の誰もが「代打か」「バントか」と考えたそのとき、栗山は迷わず言った。
「村上で勝負する。お前が決めろ。」
三冠王を獲った選手が、努力を重ねてきた姿を栗山は知っていた。
結果ではなく、「その人を信じ切れるか」で決断した。
結果、村上のサヨナラ打で日本は決勝へ。
この一打こそ、“信じ切る”ことの象徴だった。
3. 「信じる」と「信じ切る」の違い
栗山は本書でこう語る。
「信じる」と「信じ切る」の違いは、
「なりたい」と「なる」の違いと同じだ。
「信じる」は希望であり、「信じ切る」は覚悟だ。
覚悟を持つことで、行動も時間の使い方も変わる。
この言葉は選手にも、自分自身にも向けられている。
監督がブレれば、チームは揺らぐ。
だからこそ、「信じ切る」と決めた瞬間から、リーダーの責任が始まるのだ。
4. 大谷翔平の“二刀流”を信じ抜く覚悟
栗山の“信じ切る力”を象徴するもう一つのエピソードがある。
それが、大谷翔平の「二刀流」構想だ。
当初、野球界では「無理だ」「中途半端になる」と批判が殺到した。
しかし栗山は、「翔平の可能性を信じ切る」と決めた。
「翔平が壊れるなら、私がクビになればいい。」
監督として全ての責任を背負い、選手の挑戦を守った。
この覚悟が、のちに“世界一の選手”を生み出す土台になった。
5. 「信じてもらうこと」が人を変える
栗山自身、現役時代は怪我や病に苦しんだ。
プロ入り後すぐにメニエール病を患い、思うように動けなかった彼を支えたのは、
二軍監督・内藤博文の言葉だった。
「お前が人間としてどれだけ大きくなれるかのほうが大事だ。」
比較ではなく、「昨日の自分」を超える。
そう教えてくれた指導者に「信じてもらった」経験が、
栗山の“信じる力”の原点となった。
6. 「常識」に縛られず、自分の目を信じる
栗山が貫いてきた信念のひとつに、
**「常識と戦う」**という姿勢がある。
大谷の二刀流も、村上への信頼も、
「セオリー」ではなく「自分の感覚」に従った結果だ。
「常識に縛られると、信じ切る力は鈍る。」
他人の正解ではなく、自分の感じた可能性を信じる。
それが、リーダーとしての直感を磨く方法なのだ。
7. 苦しい時こそ「逃げない」
栗山が最も苦しかったと語るのは、
監督としての最後の3年間。チームは5位が続いた。
勝てない試合が続いても、栗山は逃げなかった。
「艱難辛苦でしか、人は育たない。」
読書に没頭し、言葉に救われ、信念を磨いた。
その試練の時期が、のちのWBC優勝につながる“鍛錬の時間”だったのだ。
8. 「信じ切る力」がチームを変える理由
人を信じるとは、結果を保証することではない。
「この人を信じた」と胸を張れる自分でいること。
栗山は言う。
「勝ちたいから信じる、ではない。
信じるから勝てる。」
信じることを先に置く。
すると、相手の中に“責任”と“覚悟”が生まれる。
それがチームを強くする本当の原動力だ。
9. 『信じ切る力』が教えてくれる3つの実践法
栗山が日々行ってきた「信じ切る力を育てる習慣」は、誰にでも応用できる。
- 言葉を書き出し、見える場所に貼る
―「言葉は心を形にする」。自分を律する魔法の鏡。 - 部屋を整え、神社に参拝する
―心を清め、雑念を祓うことで直感を磨く。 - 寸暇を惜しんで本を読む
―本の中に“他人の生き方”を学び、自分を深める。
小さな積み重ねが、“信じる力”を強くしていくのだ。
結論|信じ切るとは「覚悟」であり「愛」である
栗山英樹の成功は、戦略やデータだけでは説明できない。
彼の強さは、「人を信じ切る覚悟」と「信じられる喜び」にある。
人は誰かに信じられたとき、最大の力を発揮する。
そして、自分を信じた分だけ、人生は動き出す。
「信じ切る力」とは、運を呼び込む生き方そのものだ。
一読のすすめ
『信じ切る力』は、スポーツの枠を超えた“人間学”の書。
リーダー、上司、教師、親――
誰かを導く立場にあるすべての人に読んでほしい。
データやロジックではなく、「心の信頼」で人を動かすリーダーシップを学べる。
そして読み終えたあと、あなたもきっと誰かを信じてみたくなる。
