「上の者は下の者より苦労せよ」——幸田露伴が説く“真のリーダーシップ”とは
「上の者は下の者より苦労せよ」とは
幸田露伴の『努力論』には、人の生き方や働き方に関する普遍的な教えが数多くあります。
その中でも特に印象的なのが、この言葉——
「上の者は下の者より苦労せよ」 です。
露伴はこう述べます。
「先生が生徒よりも朝早くから夜遅くまで勉学に励めば、それは自然に生徒に好影響を与える。」
つまり、指導者が努力している姿を見せることこそ、最も力強い教育なのです。
口で「頑張れ」と言うよりも、自らが一歩先に立ち、汗を流す姿こそが、周囲を動かす。
露伴のこの教えは、教育現場だけでなく、企業や組織のリーダーにも深く響く言葉です。
「上の者」が働くことは“逆さま”だが、意味がある
露伴は同じ節の中でこうも言います。
「上の立場にある人間が部下たちよりもよく働くということは、まさに逆さまだ。」
本来、役職が上がれば、肉体的な労働は減るのが一般的です。
しかし露伴は、それでも上の者が下の者より苦労すべきだと説きます。
なぜなら、上に立つ者の努力は、組織全体に目に見えない形で波及するからです。
上司が真剣に働けば、部下は自然と姿勢を正し、
先生が学び続ければ、生徒も学びの姿勢を崩さない。
その“空気の伝染”こそが、リーダーシップの本質だと露伴は見抜いていました。
苦労する上司は「背中で導く」
現代の職場では、「働きすぎる上司」や「プレイングマネージャー」が批判されることもあります。
しかし、露伴の言う“苦労”とは、単に長時間働くことではありません。
それは、
- 誰よりも先に動く姿勢
- 責任を人任せにしない覚悟
- 部下の失敗を自分ごととして受け止める度量
こうした“心の労力”のことです。
リーダーは、他人を動かす前にまず自分が変わらなければならない。
それが「上の者の苦労」であり、最も尊い努力なのです。
苦労するリーダーが生む「信頼」と「共感」
露伴の考え方は、現代のマネジメント理論にも通じています。
心理学者ロバート・K・グリーンリーフが提唱した「サーバントリーダーシップ(奉仕型リーダー)」は、まさに「上の者が下の者のために苦労する」ことを重んじます。
人は、命令や肩書きでは動きません。
心から尊敬できる人に対してこそ、自然と尽力したくなるものです。
露伴の言う「上の者の苦労」は、
単に努力を美徳とする道徳ではなく、信頼を育てる具体的な行動指針なのです。
「上の者の努力」は決して無駄にならない
露伴は次のように結びます。
「高い地位にある人間が低い地位の人間よりも身を苦しめ働くとき、その影響は決して無駄に消え去らない。必ず何らかのよい結果が出てくる。」
この言葉には、深い実感がこもっています。
誰も見ていない努力でも、必ず誰かが見ています。
見えないところで積み重ねた誠実さは、信頼や尊敬、チームの結束といった“形にならない成果”を生み出すのです。
そして、それが巡り巡って、自分自身を支える力となる。
露伴は、そうした**「努力の連鎖」**を信じていました。
まとめ:上に立つほど、下に光を当てる努力を
「上の者は下の者より苦労せよ」という教えは、
“リーダーとは何か”を根本から問い直す言葉です。
上に立つとは、偉くなることではなく、
より多くの人のために汗を流す覚悟を持つこと。
先生は生徒の模範に、
上司は部下の支えに、
親は子の背中に——。
立場が上がるほど、自分の行動が誰かに影響を与える。
だからこそ、上の者こそが最も努力しなければならないのです。
幸田露伴のこの言葉は、100年以上経った今も変わらず、
リーダーとしての在り方を静かに、しかし力強く問いかけています。
