「名誉は他人に、非難は自分に」──新渡戸稲造『人生読本』に学ぶ、真のリーダーシップとは
「名誉は他人に、非難は自分に」──指導者のあるべき姿
新渡戸稲造は『人生読本』の中で、次のように述べています。
「日本では『人の上に立つ者は、名誉を得るときはこれを部下に帰し、失敗したときは部下の責任を自分が負う』という『名誉は他人に、非難は自分に』というよき伝統がある。」
この言葉は、リーダーシップの理想を見事に表現しています。
それは、成果を譲り、責任を引き受ける覚悟。
新渡戸が称賛したのは、他人の功績を喜びとして受け止め、部下の失敗を自らの責任として背負う人でした。
このような指導者は、表に出ることは少なくとも、周囲から深い信頼と尊敬を集めるのです。
名誉を譲ることが、チームを強くする
新渡戸は、自身の知人の例を紹介しています。
「仕事において、よいことはいつも部下に花をもたせ、自分は根となり葉となってこれを保護するように心がけている者がいる。」
この「花をもたせる」という言葉に、リーダーの本質が凝縮されています。
花が咲くのは、土が支え、水が育て、光が照らしているから。
それと同じように、部下の成果の裏には、必ず上司や仲間の支えがある。
それを知りながらも、自分の功績を主張せず、「君のおかげだ」と言えるリーダー。
その謙虚さこそが、部下のやる気と忠誠を引き出します。
真のリーダーは、自分を立てるよりも、他人を立てる人なのです。
非難を引き受けることで、人は信頼される
名誉を譲るのは簡単ではありません。
しかし、それ以上に難しいのは、「非難を自分が負う」ことです。
人は失敗したとき、誰かに責任を押しつけたくなるものです。
けれど、新渡戸は言います。
「失敗したときは部下の責任を自分が負う。」
これはまさに、責任を取る覚悟の教えです。
責任を取るリーダーは、部下に安心感を与えます。
「自分が守ってくれる」と信じられるからこそ、部下は思い切って挑戦できるのです。
一方で、責任を回避するリーダーのもとでは、人は恐れ、創造性を失っていきます。
信頼は、立場や権力ではなく、犠牲をいとわない姿勢によって築かれるのです。
日本に受け継がれた「武士道のリーダーシップ」
新渡戸稲造は『武士道』の著者でもあり、この「名誉は他人に、非難は自分に」という考え方は、まさに武士道の精神と通じています。
武士は、仲間の失敗を自分の恥と受け止め、部下の功績を自分の誇りとして受け入れました。
それは、名誉を分かち合うよりも、名誉を譲ることに誇りを見出す文化。
この精神は、現代のリーダーシップにも深く通じます。
リーダーが成果を独占せず、責任を引き受けることで、組織全体に誠実さと信頼の風土が生まれます。
現代に生きる「名誉は他人に、非難は自分に」
今日のビジネス社会でも、この言葉はそのまま通用します。
チームが成功したとき、
「みんなのおかげだ」と言える上司。
失敗したとき、
「私の指導不足だ」と言える上司。
そんなリーダーのもとで働く人たちは、安心して力を発揮できます。
そして自然と、「この人のために頑張りたい」と思えるのです。
一方で、成功を自分の手柄にし、失敗を他人のせいにするリーダーほど、人の心は離れていきます。
つまり、新渡戸が説いたこの教えは、チームを動かす人間力の核心でもあるのです。
まとめ:真のリーダーは、背中で語る
『人生読本』のこの一節は、100年以上経った今もなお、リーダーの理想像を照らしています。
「名誉は他人に、非難は自分に。」
この言葉は、単なる謙譲の美徳ではありません。
それは、他人を信頼し、責任を引き受ける勇気の証です。
名誉を譲れば、人はあなたを慕う。
非難を引き受ければ、人はあなたを信じる。
その積み重ねが、真のリーダーシップを築くのです。
新渡戸稲造が説いたこの教えは、
今も変わらず「信頼で人を動かす人間」の道を照らし続けています。
