「左方移動=細菌感染症」という理解は臨床で広く浸透しています。しかし、実際には細菌感染症以外の病態でも左方移動がみられることがあるため、注意が必要です。ここでは、その代表例と細菌感染症との違いについて整理します。
1. 拒食症・メタボリックアシドーシス・術後
報告例は少ないものの、拒食症や代謝性アシドーシス、外科手術後に左方移動がみられたという報告があります。
- 発現頻度は非常に稀
- 実際の臨床では経験することは少ない
- 検査所見も細菌感染症ほど明確ではない
これらは一過性の変化として捉えるべきであり、感染症を積極的に疑う所見とは言えません。
2. 大量出血
大量出血の際にも左方移動がみられることがあります。
- 好中球が血中から消失するため、理論的には「消費」に近い現象
- ただし変動は乏しく、軽度のCRP上昇に留まる
- 細菌感染症を示唆する所見ではない
このため、出血に伴う左方移動を細菌感染と誤認しないことが重要です。
3. 重症ウイルス感染
重症化したウイルス感染症でも、稀に左方移動が生じることがあります。
- 血管内皮障害により、好中球が血流プールから滞留プールへ移行
- 血中好中球数が減少 → 骨髄から幼若好中球が放出される可能性
- あるいは骨髄の毛細血管障害により、通常と異なる経路で幼若好中球が放出される
ただし、好中球が大量に消費されるわけではないため、細菌感染症にみられるような顕著な変動には至りません。
4. 細菌感染症との違い
非細菌性疾患での左方移動は、いずれも変動が小さく、一過性です。また、CRPの上昇も軽度に留まります。
一方、細菌感染症では、
- 左方移動が大きく変動する
- CRPが15 mg/dLを超えることが多い
このため、臨床的には鑑別は比較的容易です。
まとめ
左方移動は典型的には細菌感染症でみられる所見ですが、例外的に以下の病態でも起こり得ます。
- 拒食症、メタボリックアシドーシス、術後
- 大量出血(軽度の変動)
- 重症ウイルス感染(稀)
しかし、これらはいずれも変動が小さく、CRP上昇も軽度であり、細菌感染症のような顕著な検査値の変化はみられません。
したがって、左方移動を認めても「即ち細菌感染症」と決めつけるのではなく、CRPの変動や臨床症状と合わせて総合的に判断することが大切です。