創傷治癒における補助療法の一つとして、低出力レーザー療法(LLLT: Low-Level Laser Therapy) と 光生体調節(PBM: Photobiomodulation) が注目されています。これらは熱作用を伴わない「非熱的光作用」により、細胞レベルで修復を促進することが期待されています。
1. LLLTとPBMの基本原理
光は皮膚内でクロモフォア(光を吸収する分子) に作用します。代表的なクロモフォアは:
- メラニン(表皮)
- ヘモグロビン(真皮)
- 水(皮膚全層)
波長が長いほど深部に到達するため、赤色光(600–700nm) は表層〜中層に、近赤外線(800–900nm) はさらに深部まで届きます。
2. ホルメシス効果(Hormesis)
LLLTやPBMは 「少量で刺激、多量で抑制」 というホルメシス反応を示します。
- 低照射 → 細胞活性化、修復促進
- 高照射 → 逆に抑制的に作用
そのため、適切な照射量の設定が重要であり、標準化されたプロトコルが未確立という課題があります。
3. 生物学的作用とメディエーター
LLLTやPBMは創傷治癒の各段階に作用します。
- 抗炎症効果(炎症期)
- 一酸化窒素(NO)産生 → 血管拡張 & 抗炎症作用
- 活性酸素種(ROS)の調整
- IL-6, IL-13, IL-15 などサイトカインの制御
- 増殖・リモデリング期
- TGF-β → 線維芽細胞増殖を促進
- MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ) → コラーゲン代謝に関与
- Cyclin D1 → 上皮細胞の増殖と成熟を促進
動物実験では コラーゲン産生の増加、酸化ストレスの低下 が確認され、in vitro研究では ケラチノサイトの増殖促進 が報告されています。
4. LLLTの臨床応用とエビデンス
利点
- 非侵襲的で安全性が高い
- 痛みや腫脹、発赤といった副作用がほぼない
- 広範囲照射が可能で、ウェアラブル機器による在宅使用も検討されている
- レーザー治療よりも安価で手軽
欠点
- 効果を得るにはほぼ毎日の照射が必要
- 標準化プロトコルが未確立
臨床研究の報告
- 静脈性潰瘍(VU):赤色光は従来治療に追加しても有意差がなかった報告あり
- 褥瘡(PU)・糖尿病性潰瘍(DU):赤色光で治癒が促進し、近赤外線より有効との報告
- ケロイド予防:近赤外線(805nm LED)を用いた予防的照射で、患者が自宅で1か月自己施行し良好な結果を得た小規模研究
このように疾患や波長によって結果は異なるものの、一定の有効性が示されています。
5. 今後の課題と展望
LLLTとPBMは、炎症抑制から瘢痕予防まで幅広く作用するポテンシャルを持っています。しかし、以下の課題も残されています。
- 照射条件(波長・出力・時間)の標準化
- 大規模臨床試験による有効性の検証
- 在宅治療機器の普及とアドヒアランス確保
リハビリ臨床では「創傷管理の補助的手段」として導入されることが多く、患者教育やセルフケア支援と合わせて活用が期待されます。
まとめ
低出力レーザー療法(LLLT)と光生体調節(PBM)は:
- 赤色光(600–700nm)、近赤外線(800–900nm)が主に使用される
- NO産生、TGF-β活性化、サイトカイン制御などで炎症抑制と再生促進を担う
- 安全性が高く、非侵襲的で広範囲に使用可能
- PUやDUでは有効例が多く、ケロイド予防にも応用可能性あり
- ただし標準プロトコルが未確立で、さらなる研究が必要
臨床家にとって、LLLTは「非侵襲的で副作用の少ない補助療法」として、今後ますます重要性を増す可能性があります。