ブレンデッドウイスキーの個性を決めるのは「モルトウイスキー」。
大麦麦芽と水を原料に、糖化から発酵、蒸溜、熟成、ブレンドまでの長い旅を経て、ようやく一杯のウイスキーが完成します。
ここでは、モルトウイスキーの製造工程を順を追って見ていきましょう。
1. 原料:大麦と水
- 大麦(麦芽)
モルトウイスキーづくりには「二条大麦」が用いられます。でんぷんを糖に変えるためには「糖化」が必要ですが、その前段階として大麦を発芽させ、酵素をつくらせた後に乾燥させ「麦芽(モルト)」にします。 - 水
ウイスキーにとって水は極めて重要。異味・異臭がなく飲んでおいしいことはもちろん、酵母の活動に適したミネラルバランスを持つ水が求められます。蒸溜所の立地に「水質の良さ」が重視される理由です。
2. 仕込み(糖化)
麦芽を粉砕し、温水と混ぜて「お粥状」にします。ここで麦芽中の酵素が働き、でんぷんが糖に分解されます。
ろ過を経て得られる液体を「麦汁」と呼び、発酵のための基礎となります。
3. 発酵
麦汁に酵母を加えると、糖分がアルコールと炭酸ガスに分解され、さらにウイスキー特有の香味成分が生まれます。
発酵はおよそ60時間で終了し、できあがった液体は「もろみ」と呼ばれ、アルコール度数は約7%です。
4. 蒸溜
発酵を終えたもろみは「ポットスチル」と呼ばれる銅製の単式蒸溜器に入れられ、2回蒸溜されます。
- 1回目を「初溜」
- 2回目を「再溜」
これによりアルコール度数は65〜70%に高められ、ニューポット(新しいウイスキー原酒)が生まれます。
蒸溜釜の形状や加熱方法によって香味が変わるため、蒸溜所ごとに個性的なモルト原酒が造られるのです。
5. 熟成(貯蔵)
ニューポットは樽に詰められ、長期間熟成されます。
- 樽材:ホワイトオーク、スパニッシュオーク、ミズナラなど
- 樽の大きさ:シェリー樽(約480L)、ホッグスヘッド(約230L)、バーレル(約180L)など
熟成の過程で琥珀色と奥深い風味が生まれます。気候や湿度も影響し、同じ蒸溜所でも異なる個性の原酒が育ちます。
熟成の化学的メカニズムには未解明な部分も多く、「時の技」と呼ばれる神秘性がウイスキーの魅力をいっそう高めています。
6. ブレンド(ヴァッティング)
モルトウイスキーは熟成年数や香味の異なる原酒を組み合わせて仕上げられます。
- ヴァッティング:モルト原酒同士を混ぜる工程
- ブレンデッドウイスキー:モルト原酒とグレーン原酒を合わせ、新たなハーモニーを生み出す
例えば「山崎12年」は山崎蒸溜所のモルト原酒だけで造られていますが、その表示は「最低12年熟成された原酒を使っている」ことを意味します。実際には平均熟成年数はさらに長いことも多いのです。
まとめ
モルトウイスキーは次の工程を経て造られます。
- 原料(大麦と水)
- 仕込み(糖化)
- 発酵
- 蒸溜
- 熟成(樽での貯蔵)
- ブレンド
この複雑で丁寧なプロセスを経ることで、ウイスキーは多彩で奥深い風味を生み出します。次にウイスキーを飲むときは、その一杯の背景にある「大麦・水・樽・時間」の物語を思い浮かべてみてはいかがでしょうか。
🥃一口ごとに感じられるロマンが、ウイスキーの最大の魅力です。