内側副靱帯(MCL)と半膜様筋腱の関係を理解する|膝内側部痛の評価に必要な解剖学的視点
内側副靱帯(MCL)と半膜様筋腱の解剖を理解する重要性
膝関節の内側部痛を評価する際、臨床家が最も注意を払うべきポイントの一つが、内側副靱帯(Medial Collateral Ligament;MCL)と半膜様筋腱との関係です。
両者は解剖学的に非常に近接しており、圧痛や滑走障害が生じやすい領域でもあります。そのため、痛みの由来を正確に捉えるためには、表層から深層にかけての構造的理解が欠かせません。
MCLを構成する2つの主軸:AOLとPOL
MCLは一枚の靱帯として捉えられがちですが、実際には**表層のAOL(Anterior Oblique Ligament)と深層のPOL(Posterior Oblique Ligament)**という2つの主要構造で構成されています。
- AOL(前斜靱帯):大腿骨内側上顆から脛骨内側面へ前下方に走行し、膝の外反や回旋に対する一次的な安定性を担います。
- POL(後斜靱帯):MCLの深層後方に位置し、関節包や後内側構造と連続しています。特に膝伸展位での安定性維持に関与し、後方関節包と協調的に働きます。
このAOLとPOLが、内側安定性を支える「二本柱」として機能していることを理解することが、評価・治療の第一歩となります。
半膜様筋腱との介在構造
AOLとPOLの間には、**半膜様筋腱(Semimembranosus tendon)**が介在します。
半膜様筋は膝屈筋群の一つであり、その腱は膝内側後方を走行して脛骨後内側面に停止します。興味深いのは、この腱が単に筋の終止部として働くだけでなく、膝関節の滑動性を調整する機能的構造としても重要な役割を果たしている点です。
半膜様筋腱とAOL・POLの間には**滑液包(bursa)**が存在し、この滑液包が滑走性を確保する潤滑システムとして働きます。
膝の屈曲・伸展動作に伴い、半膜様筋腱がMCLの間を滑動することで、摩擦の軽減と動的安定性の両立が図られています。
膝伸展時に求められる半膜様筋の滑動性
膝関節を伸展していく過程では、半膜様筋腱の滑走性が大きく関与します。
特に伸展位ではPOLが緊張し、半膜様筋腱との摩擦や圧迫が増加しやすくなります。滑液包の炎症や腱滑走障害が起きると、膝内側後方部に局所的な圧痛を認めるケースが多く見られます。
したがって、膝内側部痛の評価時には「MCL由来か、半膜様筋由来か」を正確に区別する必要があります。
触診ではAOL・POLの走行を意識しながら、屈曲位と伸展位での疼痛変化を比較することで、どの層に障害が生じているかを推定できます。
臨床での評価と治療のヒント
- 圧痛部位の確認
AOL(浅層)かPOL(深層)かで圧痛の深さや位置が異なります。浅層に限局した痛みであればMCL表層、深部に及ぶ痛みであれば半膜様筋腱や滑液包の関与を疑いましょう。 - 膝屈曲位での動的触診
膝を軽度屈曲させた状態で半膜様筋を収縮させ、滑動制限や疼痛の有無を観察します。滑走不全がある場合、筋腱移行部のリリースや動的ストレッチが有効です。 - POLの過緊張へのアプローチ
POLは膝伸展位で張力が高まるため、伸展制限や膝裏の張り感が強い症例では、POL周囲の軟部組織リリースや後内側ストレッチを検討します。 - 筋-靱帯間の滑走改善
徒手療法やIASTMを用いて、AOL–半膜様筋腱–POL間の滑動を促すことで、疼痛の軽減と関節運動の改善が期待できます。
まとめ
膝内側部の疼痛評価において、内側副靱帯(MCL)と半膜様筋腱の関係を理解することは不可欠です。
AOLとPOLという二層構造、そこに介在する半膜様筋腱と滑液包。この立体的な関係を意識することで、圧痛の由来を明確にし、より的確な治療戦略を立てることができます。
臨床で膝内側部痛に直面した際は、単なる「MCL炎症」や「半膜様筋過緊張」といった単純な見立てに留まらず、構造間の滑走と緊張バランスを評価する視点を持つことが、痛みの根本的改善につながるでしょう。
