『量的緩和の誤解――お金を増やしても経済は動かない』
お金を増やしてもデフレは終わらない
デフレを脱却するには、消費と投資、すなわち「需要の拡大」が不可欠である。
ところが、日本銀行がいくらお金を発行しても、物価は上がらない。
2013年以降、日銀は国債を買い入れて250兆円もの日本円を発行した。
それでもインフレ率はマイナス圏。なぜか。
それは、日銀が発行しているお金の多くが「日銀当座預金」という、私たちが使えないお金だからである。
日銀当座預金とは何か
日銀当座預金は、政府や銀行など一部の機関しか持てない特別な口座だ。
データ上で数字を増やすだけで発行できるこの“デジタルマネー”は、一般の買い物や投資には使えない。
つまり、日銀が国債を買い取って日銀当座預金を増やしても、それは「銀行間の決済資金」が増えただけで、私たちの生活や企業の投資に流れ込むわけではないのだ。
信用創造――お金は銀行が生み出す
市中銀行は、日銀からお金を借りて貸し出しているわけではない。
銀行は預金を受け入れ、それを再び貸し出すことで「預金という形のお金」を新たに生み出している。
この仕組みを「信用創造」と呼ぶ。
たとえ現金が100万円しかなくても、銀行が貸し出しと預金を繰り返せば、300万円、500万円とお金は増えていく。
つまり、銀行は社会の中で実質的にお金を創り出している存在なのだ。
日銀当座預金の本当の役割
では、日銀当座預金は何のために存在するのか。
それは、銀行が貸し出せるお金の上限を管理するためである。
銀行は「預金準備率」に応じて、一定額の当座預金を日銀に保有しなければならない。
この制度によって、過剰な貸し出しが抑えられ、インフレが制御されている。
したがって、量的緩和とは「銀行の貸出余力を増やす政策」にすぎない。
民間が借りない限り、お金は回らない
問題は、銀行に貸し出す余力があっても、企業も家計も借りたがらないことにある。
デフレが長期化し、将来への不安が根強い今の日本では、誰もリスクを取らず、お金を使わない。
結果として、日銀当座預金残高は275兆円に膨れ上がったが、民間の預金総額はわずか1323兆円。
銀行は「貸せるのに貸さない」のではなく、「借りる相手がいない」のである。
デフレ脱却の鍵は「政府の支出」
金融政策だけではデフレは終わらない。
民間が消費も投資も控える中で、最後に需要を生み出せるのは政府だけだ。
国債を発行し、公共投資や社会保障などを通じてお金を使う――これが唯一の出口である。
お金は発行することよりも、「誰が、何のために使うか」が重要なのだ。
量的緩和ではなく、政府による積極的な財政出動こそが、停滞した経済を再び動かす唯一の道である。
